胎内回帰
トク トク トク … トク トク トク …
響くは己の鼓動のみ。
トク トク トク … トク トク トク …
ほかにはなにも聞こえやしない。
温かい波に包まれて揺蕩(たゆた)う心地は既に記憶から失せて等しい母と呼ばれるモノの翳か。
内包されすべてを許される、そんな錯覚。
トク トク トク … トク トク トク …
ああ、温かい。
まるであの人のよう……
優しくて、温かくて、すべてを否定せずに受け止めてくれるヒト。
トク トク トク …
このままあなたに包まれていたいよ?
母親なんて、もう覚えちゃいない。だから、きっとこれはあなただ。
俺を優しく包んでくれる、唯一の安寧の場所。
あなたの傍でだけ、俺は安らぎを得られることができる。
トク トク トク …
トク トク …
トク …
「―――――って、カ、カカシさんッッ!?」
「ッッ!?」
ザバ、という激しい水音と共に浮上するのは己の意識。
一体何が起こったのか。
状況判断が一瞬遅れ、カカシは目を見開いた。
目の前には明らかに怒気を孕んだ情人の姿。思いっきり首根っこを捕まれているその姿はまるで猫のようだ、とぼんやり考えていると
「何やってんですか、アンタはッッ!!」
よく響く愛しいその声で怒鳴られた。
「あの、イルカせんせ…?」
「何ですか!」
「俺…、何かやらかしました……?」
任務明けにイルカの家を訪れて、僅かに残る血臭に気付いた彼によって指し示されたのは浴室。
最初からそのつもりだったのか丁度よい湯加減で保たれたそれに身を埋めれば、幾許か緊張していた糸がゆるりと解けていくのを感じた。
そうして――――
「……あなたにしては珍しく長湯だから様子を見に行ってみれば、浴槽に沈んでるんですから。そりゃ、ビックリもします。
フツー、風呂場で溺れる人なんていませんよ。ったくもう……」
「いやー、面目ないです〜」
まだ乾ききらない髪をガリガリと掻いて苦笑いを浮かべるのは上忍。
その表情のどこにも反省の色を見出すことができずにイルカは溜息をついた。
「いやー、何か帰ってきたなぁ〜って思ったら気が抜けちゃって…」
頃合よく冷えた麦茶で咽喉を潤すカカシにイルカはやはり息をつくだけだった。
とどのつまりはこういうこと。
湯浴みの最中、浴槽の中で転寝をしてしまったらしいカカシは気付かぬうちに湯船の中に沈んでしまっていたらしい。
それもかなりの時間。そして、普段なら本当に入ったのかと疑いたくなるようなスピードで上がってくるカカシが今日に限っての長湯。
心配したイルカが声を掛けても返事は無い。失礼と知りつつも覗いてみれば、
湯船に沈む溺死体が一つ。
「俺ン家で勝手に死なんで下さい。
……湯中りまで起こしかけて、疲れてるのは分かりますけど洒落になりませんよ、ホント…。」
「すみませんでした〜」
普段は色白のそれがほんのりと気色じみてるのは湯中りの所為。
慣れない長湯が原因なのは言うまでも無い。
「アンタ、本当に反省してます?」
「え〜、してますよ〜」
「……ま、いいですけどね。別に」
「何かその言い回し酷くないですか?」
「知りませんよ、そんなの」
ふい、とそっぽを向く仕種がどこか子どもじみていて、カカシは口の端だけで微笑んだ。
風呂場で転寝して、尚且つ溺れかけるなど昔の自分なら考えられない失態。
普通の睡眠ですら浅く満足に取れた試しがなかったのに、湯船に沈んでまで眠りこけていた自分。
安心していた。気を張らなくていいこの空間に…
独りのときはどうしても警戒が睡眠の上を行くから、でもこのヒトの前ではそれすらも必要ない。
唯一の安寧の場所。
そのままで、ありのままでいていい場所。
「―――でも、出来ればあんなことは二度とゴメンです……」
「イルカせんせい?」
「……心臓止まるかと思いましたよ」
「すみません」
「全くです。反省しなさい」
「はい。ごめんなさい」
上忍が中忍に怒られてる姿なんて、ほかの奴らが見たらきっとビックリするに違いない。
何だかんだで縦社会。階級差は絶対的。
でも、このヒトはその壁さえも乗り越えてくれる。
「写輪眼のカカシ」ではなく、「はたけカカシ」としてみてくれる。
「イルカ先生」
「何ですか?」
「大好きですvv」
触れるように唇を攫えば、
「ッッ!!!!/////
――アンタ、本当に反省してるんですかッッ!?」
真っ赤な顔で怒られた。
反省してますよ、勿論。でもね、これが「俺」なんです。
写輪眼とか、上忍とか、そーゆーの一切取り払った「はたけカカシ」なんですよ。
あなたの前でだけ、俺は「俺」でいられるんですよ……
カカシはニッコリと微笑んだ。
七夕話があまりにもあまりだったので
その反動とも言えなくはない
ヘタレでプチ乙女なカカシ
ビミョーにキモいっすね(汗
タイトルが硬い割に内容は真逆爆進
20040809