苦くて苦くて でも 甘い









―――――こんな感情、どうしたらいいのか分からない。とてもじゃないが持て余す。










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「―-―カカシ先生。こんにちわ」
「……どぅも」

トレードマークといっても過言ではないだろう、頭上で結い上げられた黒く長い髪が風で柔く揺れた。

―――――うみのイルカ。

アカデミーで教鞭を取る彼と、それこそついぞ最近まで裏の部隊に籍を置いていた自分。
コレまでどおりの生活を続けていたならば決して接点を持つことは無かったはずだ、知り合うことはおろかこうして同じ場所で陽を浴びることも無かっただろう。しかし、その有り得ないはずのことが起こった。


原因は、と言えば―――


「そういえば、今日はお休みでしたね?」
「―――えぇ、忍びは体が資本ですから」
「休息もまた大事な任務」
「まぁ、そういうことです」

「不満、言われませんでしたか?」
「ソレ分かってて訊いてるデショ、イルカ先生」

そんな俺の問いには答えず、クスクスと笑う。
どういう想像をしているのかは知らないが、まぁ、多分そう過分に外してはいないだろう。
金髪は堂々と不平不満を口に出すわ、黒髪は口には出さないが表情態度一挙一動に不満が滲み出すぎ。唯一紅一点だけが何故か少し嬉しそうだった。が、どっちにしたって忍びがそんな簡単に己が胸中を悟られるようじゃまだまだ甘い。


この人と知り合う切っ掛けとなった初めての部下―――ナルト・サスケ・サクラ。


『仲間』の大切さを十二分に理解している子ども達はまだまだ発展途上で、教える立場としては残念ながら自分もまだ新米の域を抜けない。中々に手を焼かされているのも事実だ。格好悪いのでおおっぴらに言ったりはしないが。

「カカシ先生にもたまの休息は必要ですよね」
「貴方に言われたくは無いですけどね、アカデミーで教鞭に立つ傍ら受付業務もこなして。この間は夜勤だったんですよね、ナルトが言ってました」
「え?あ…いや、俺は別に好きでやってるんで。―――って、ナルトのヤツそんなことまで話してるんですか!?」
「ラーメンたかるつもりだったみたいですよ?」
「あんにゃろ…全く」

一瞬、キョトンとしたかと思えば驚いて、呆れたかと思えば少しだけ困ったような顔をして、でもとても嬉しそうに笑う。
コロコロ変わる表情。きっとあの三人の元凶はここにあるんだろう。

しかし、いつからかソレに心奪われるようになっていた。




どうしてかは、分からないけど…。




―――ねぇ、イルカ先生。
貴方に聞いたら分かるのかな?貴方は俺よりもずっと『先生』だから、
俺の疑問にも答え、くれるのかな……?
俺、貴方に会うととてもドキドキするんだ。どうしてなんだろうね?





「ねぇ、イル―――」

「あ。そうだっっ!!!」

「……?」

いきなり大きな声を上げたかと思えば、
思い立ったかのように鞄をまさぐり始めたその姿を、俺はただ呆と眺めていた。
何をしようというのか?

「良かったらどうぞ。―――俺なんかの手作りで申し訳ないんですけど…」

差し出されたのは小さな小箱。重さは…然程重くは無い。
仄かに香るのは……


「コレ、もしかして……」
「あ、分かります?子ども達にせがまれて簡単な料理教室じゃないですけどね、一緒に作ったんですよ。最初は怪我とかしないように監督がてら眺めてるつもりだったんですけど成り行きで。しかもちょっと凝りすぎてしまって。――――お酒、入ってるんです。ソレ」
「ナルホド……」

確かに酒が入ってるんじゃ子どもらには渡せないよね……


今日という日に渡されたソレに一瞬心がざわついたが、
理由を聞いて納得。


「あ、じゃあ俺まだ実は仕事残ってるんで失礼しますね?」
「え?あ…あぁ、そうですか」

「じゃあ、」
「はい」








来た道を戻るその後ろ姿を
ほんの少しの名残惜しさをと共に見送って。

それはしばらく経ってからのことだった。





「………アレ?」





仕事が残って、る…?
残ってるのに、何であの人はわざわざ俺のところに…??












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大丈夫だったろうか…?
不自然ではなかっただろうか…?

まるで早鐘のように鳴り響く心臓の鼓動がウルサイ。


『良かったらどうぞ。―――俺なんかの手作りで申し訳ないんですけど…』
『子ども達にせがまれて簡単な料理教室じゃないですけどね、一緒に作ったんですよ』


自分で言ったこととはいえ、今更ながら軽率だったのではないかと不安になる。

「料理教室ってがらかよ、俺が……」

大体子ども達と料理をするのに酒など用意するはすが無い。
でも、そうでも言わないと自分が彼に渡す理由が出てこなかった。

彼の姿を見出して、偶然を装って慌てて外に出た。
今日は任務が無いことは子ども達から既に聞き及んでいたから、てっきり逢う事は無いだろうと思っていたのだ。でも、それでも一応、念のため…
そんな一縷の奇跡に縋って鞄の中に潜ませておいたソレ。まさか本当に姿を見かけるとは思っていなかったから、考えていた事とは全く違う言葉が勝手に口をついて出た。まるで口だけが別の生き物のように……


「あぁもう……」


顔が熱い。

らしくないことと分かっていた。
でも芽生えてしまったソレから目を背けることも出来ず、かと言っておおっぴらに伝える勇気などあるわけもなく、
結局……


「ナニやってんだ、俺」


初めて会った時は、まさかこんな風になるなんて自分でも思わなかった。
第一印象はむしろ悪かったようにすら記憶する。表情の全てが伺えず、それまでの上忍師歴を三代目から伺った時には言葉を失ったくらいだ。今でこそあの人で良かったと思うが、その当時は失礼ながら本当に大丈夫なのかと心配していた。

あの人には口が裂けても言えないが。

そんな印象が覆ることとなったのはもう随分と前のこと―――


忘れもしない。


殆どもう習慣と言っても過言ではないだろう慰霊碑への顔出し。
さすがに毎日という訳にはいかないが、それでも時間を作ることが出来れば極力足を運ぶようにしていたその場所に、その日は珍しく先客が居た。夜も更け始め薄暗い時間帯ではあったが、慰霊碑は少しばかり丘が小高くなったところにあるためそう近くも無い距離からでもその存在は確認できる。特に何をするでもなくただ棒立ちのままそこに居る人影に、このまま行くべきか止めるべきか一瞬の躊躇のあと結局、何か思うところがあるのかもしれない邪魔はすまいと思い返してその場をあとにしようとした時だ。

わずかな雲間から差し込んだ月明かりに照らされた銀髪。

何をするでもない、ただ立ち尽くしているだけ。
それだけなのに目を奪われた。相変わらずその表情の殆どを布の奥に隠したまま、しかし何故だろう、それはまるで泣いているかのように見えた。

子ども達を介して少しずつ知り得た彼の印象からは程遠いその姿に、結局声を掛けることも憚られその日はそっとその場をあとにした。彼とて何事もなくただただ平穏なこれまでを送ってきたわけではあるまい。むしろ、自分のソレよりもずっとずっと過酷な場に身を投じていたのだ、彼があの場に用向きがあったとしても何等不思議は無い。
しかし、不思議とそれはまるで小さな傷のようにチリチリと心に引っ掛かる。


それからだ、

気がつけばその姿を目で追うようになっていたのは――――――


そして追う内に気がついた。
確かにその表情の殆どはうかがい知ることは出来ない、しかし、その感情はあの人がが意図して隠さない限りは読み取ることが然程難しくないことに。
小さな発見、といえばソレまでだが。何だか妙に嬉しかった。


――――もっと知りたい。


あの時、貴方はあの慰霊碑の前で何を想っていたんでしょうか……?


貴方のことが、もっと、もっと――――知りたいです。カカシ先生……


その強い想いが一体どこから来るものなのか、分からないほど子どもではなかった。
と同時に、無邪気な子どものようにその感情を素直に受け入れることも難しく。


一生胸の内に仕舞い込むつもりでいた筈だった






なのに――――――






「ホントなにやってんだ、俺は……」











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2月14日。
甘い甘いチョコレートでその想いを届ける日。



甘い甘いこの気持ち 



彼の人の元へ届くその時も もう間近……?
























遅刻組(汗

この話、全然甘くないよ?
<セフルツッコミ

20120216










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