大きな子ども
「イルカ先生、子どもって欲しいですか…?」
一体何をそんなに気に入られたのか分からない上忍に、好きだ、愛してると囁かれ、
気がつけば絆されていた自分。
何を考えてるのかなんてのはさっぱり分からなくて、突拍子っぷりには正直な話ついていけない。
「何なんですか、唐突に…」
さっきからずっとショボくれていると思ったら、何を考えているのやら…
イルカは小さく息を吐いた。
上目遣いにコチラを窺う様子のそれはまるで子どもが親の様子を窺うそれに良く似ていて、
やっぱりイルカは溜息をついた。
イルカはカカシのこの仕種に自分が弱いことを自身で知っている。
……この人、本当に里一番の忍びなのか……?
偶に本気で疑いたくなるのだった。
「――-カカシさんは、欲しいんですか?子ども」
「俺、は…」
「………別れましょうか?カカシさん」
「えっ!?な、なんで…」
「何で、じゃないですよ」
そんなに慌てるなら、こんな話題振らなければいいのに…。
何がそんなに不安なのか。
俺はあなたの気持ちに俺なりにちゃんと答えてきたつもりなんですけどね。
イルカはゆっくりと息を吐くと、カカシを真っ直ぐに見る。
「俺はあなたの子どもはどうやったって生めませんからね。
あなたが子どもを欲しいと思うのなら、然るべき人と結婚するしかないでしょう?
生憎と俺は他にお付き合いをしている方と関係を続けられるほど無神経ではありませんから」
淡々と、しかし、はっきりと語るイルカに慌てたのはカカシだった。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!俺、イヤです!
そりゃ、イルカ先生と俺の間の子って言うんだったら欲しくないとは言いませんけど、イルカ先生以外の人となんて考えられませんッ!」
「……じゃあ、何でいきなり子どもの話なんてするんです」
「それは……」
「………」
気まずそうに視線を泳がせるカカシをイルカは黙って見つめ続けた。
一体何を思い、何を考えたのか自分には知る権利がある。
「だってイルカ先生…、写真見て凄く…その、笑顔が綺麗だったから……」
「写真…?」
思わず眉を潜める。
カカシの言わんとしてることが、イルカには分からなかった。
「今日、その…職員室で話してましたよね。同僚の人に生まれたんでしょ…?」
「あ」
―――確かに。
先月、子どもが生まれた同僚に皆で写真を見せてもらった。生後1ヶ月の男の子。
既に親バカを発揮して会う奴会う奴に写真を見せて回っているらしい。
そして、勿論イルカもその標的となった。
可愛らしい子だと思って、思わず頬が緩んだのは確かだった。どこかから見られていたらしい。
でも、別に子どもが欲しいと思ったわけではないと思う。確かにカカシと付き合う前は可愛らしい嫁さんを貰って、家庭を作りたいと考えていた頃も合ったが、カカシと付き合う際にそういうのは一切に捨てた。
それぐらいの心積もりで無ければ同性となど付き合えるはずが無い。
「あなたはやっぱり奥さんを貰って、子どもに囲まれる生活がしたいのかな、と思いまして…
でも、俺、やっぱりあなたのことが好きなんですよね。あなたには幸せになってもらいたいと思うんですけど、でも、やっぱり駄目なんです。
別れたくありません…」
―――ゴメンナサイ
少しだけ寂しそうに笑う笑顔に、イルカは顔を顰めた。
やっぱりこの人が里一のエリートなんてのは嘘だ。
「あなた、バカですか…?」
「はぁ、バカかもしれませんねぇ〜…。あなたの幸せより自分の幸せを優先してしまうなんて」
「そうじゃありません。
―――だから、あなたはバカだと言うんですよ!」
「……イルカ、先生?」
「俺は、そりゃ子どもは好きですよ。こんな仕事してるんです、子どもが嫌いだったら出来ないでしょう。
それに、確かに昔は嫁さん貰って子どもも何人か作って温かい家庭がつくれたらいいな、とか考えてましたよ」
ピクリとカカシの身体が反応する。
しかし、イルカはあえてそれを無視することにした。
「確かに、家庭には憧れてましたよ。それは真実です。
でも、あなた、俺のこと見縊ってませんか?俺は俺の意思であなたと付き合うことを決めたんです。
俺の幸せってなんですか。俺が幸せかどうかを決めるのは俺であって、あなたじゃないです。……俺は今、ものすごく幸せですよ?」
「……イルカ、先生」
「好きな人と一緒にこうやっていられること以外の何を幸せと呼ぶんですか?
俺があなたと居たいと思ったんです。子どもなんて、あなたと付き合いだしてから欲しいと思ったことはありません!」
俺はあなたのことが好きだから、
他の何をおいてもあなたの傍にいることを選んだんです。
イルカは自分でも顔が赤いのが分かった。
でも、この人にははっきりと言わないと伝わらない。
「俺はカカシさんがいればいいです」
カカシは驚いて目を見開いた。
そして、次の瞬間にはゆっくりと頬を染めて嬉しそうに笑った。
……本当に恥ずかしいことこの上ない。
しかし、言わなければ伝わらないのだ、この人には。
どこまでも純粋で不器用で……
「あなたはアカデミーの子どもたちよか手の掛かる子どもですよ、ホントにもう……」
「イルカせんせ〜vv」
でも、やっぱりこの笑顔が好きなんだ。
絆されて、いつのまにか好きになってて、これも惚れた弱みになるのかな…?
嬉しそうに抱きつく上忍の存在を嬉しく思う自分にイルカは小さく苦笑した――――――
……何コレ?(お前が聞くな!
20040902