ふわ ふわり
アナタに出会うまで知らなかった。
こんなにあったかい気持ちがまだ自分の中に残っていたなんて。
ちょっとしたことに一喜一憂して、
何気ないその仕草に逐一反応する。
脳で理解するより先に心や体が、反応する。
何かと理由をつけて自分を誤魔化してみたって、所詮は無駄な足掻きにしかならなくて、
結局行き着く先の答えはたった一つ、――――アナタが好きだ、というその事実だけだった。
「イル〜カせ〜んせ?」
「はぁい」
「まーだでーすかー?」
「もうちょっとですー」
チラリともコチラを向くこともなく、ひたすらペンを走らせるその姿は予想できた対応とはいえ面白くない。
無言の抗議のつもりで、その仕事に集中する背中に自分の背中を預けてみる。一瞬その重みに驚いたのか、常に止むことのなかった音がピタリと止まったがそれも僅かで、すぐにまたサラサラと静かな音が流れ始める。ついでに小さな溜息も聞こえたような気がしたが、それは気のせいということにしておくことにしよう。
出来の悪い生徒が良い点でも取ったのか、少しだけ体を揺らして笑うその微動が微かに伝わってきて、これはこれで面白い。
しばらくはこの心地よい空間に身を置いてみるのもいいかもしれない…、なんて思いながら自分もちょっとだけ『良い子』になってみた。
もしかしたら、そんな心情を読まれてしまったのだろうか?
再び、室内を無音が支配する。もしかしたら、単に生徒の回答に対する判定に悩んでいるだけなのかもし知れないけれど、背を預けたと同時に目を閉じて動きの気配だけをゆったりと追っていた自分では状況がよく分からない。
………。
しばらく待ってみても、やっぱり動く気配がない。
もしかして終わったのだろうか?
でも、その場合なら声くらいかけてくれるはずだ。
「……ィルカ、せんせ?」
「はい」
「…どうかしました?手、止まってますよ…?」
「別に何もしませんよ。ただ、今日はカカシさんが大人しいなぁ、と思って」
クスクスと笑う、その振動が背中を通じてコチラにも伝わる。
「酷いですねぇ〜。俺だってイルカ先生の仕事の邪魔がしたいわけじゃないですよぅ」
「そうですか?」
「あー…、その言い方、信じてませんねー?」
「そんなことないですよ?それに、普段はどうあれ、今日は邪魔しないでくれてたみたいだし?」
「ホラ、やっぱり信じてない〜」
ちぇ、と口を尖らせればやっぱり笑ってるのか細かな振動が伝わってきた。
当たり前の現象だ、と頭では分かっているのだがやっぱり何かが嬉しいのは”繋がっている”そんな気にさせてくれるからなのかもしれない。
幻想じみた夢見がちな感想だが、不思議とそれも悪くない。
「――スミマセン、信じてないわけじゃないんですけどね…?」
やっぱり笑っている。
「もう、そんなこと言っても説得力無いですよー。イルカ先生、笑ってるじゃないですかー」
「あはは、ゴメンナサイ。――じゃあ、アレですね。
今日のカカシさんは大人しく俺の仕事を待っていてくれたようですから……」
「アレ?終わったんですか、添削」
「もぅ、最後まで人の話は聞く」
グイ、と押されてさっきまで寄りかかっていたはずの背中が今度は圧し掛かってきた。
残念。立場を逆転されてしまった。
「はーい、スミマセーン」
「うん。やっぱり今日のカカシさんは『良い子』ですね」
「失礼な、俺はいつでも『素直な良い子』ですよ」
「自分で言ってたら世話ないです。…まぁ、いいや」
「…どうかしたんですかー?」
相変わらず背中をペッタリとくっつけたまま、表情は伺えないがそれでも分かる。
すごく楽しそうな雰囲気は目で確認しなくても、その楽しそうな表情までもが脳裏に浮かぶ。
「カカシさん、」
「はい?」
「―――コレ、差し上げます」
「え?」
背中から後ろ手を通すようにして、伸ばして座っていた足の上に落とされたソレは間違事無く――――
可愛らしい包装なんて無縁、剥き出しも剥き出しだが、
正直、そんなことはどうでもいい。
渡されたソレは確かな存在感を持ったチョコレート。
「……知ってましたか、カカシ先生?」
「え…?」
「2月14日に女性がチョコレートをあげる風習って実はそんなにメジャーじゃないんですよ」
「……?」
「この辺りじゃ当たり前、みたいになってますけどね。本当は自分の思い人に対して自分の気持ちを伝える日なんですって。だから、チョコレートである必要もなければ、女性だけに限定されたものでもないらしいんです。例えば――、例えばですよ。夫婦であれば、その日は妻の家事を夫が代わったりとか、男性から女性に花束を渡したりとか、色々あるらしいんです」
「へぇ…そうなんですか?
それは、知らなかった。
でも、そうなると―――
「それでちょっと思ったんですよね。…別に、気持ちを伝えることに性別なんて関係ない、の、かなって…。でも、折角だから…って思いまして。
――あ、いや、ガラでもないかな、とか思ったりもしたんですけど!」
自分で言ってて恥かしくなったのか、急に饒舌になって慌て始めるその背中を…
「ねぇ、イルカ先生?」
「――え?うわっ、ちょ、カカシさんっ!?」
体を反転させて抱きしめた。
上忍のスピードを舐めてはいけません、咄嗟に離れようとするその体に少しだけ力を込めて、肩に頭を乗せる。
自然と香る体臭は忍びとしては当然薄いものなのだが、それでも傍にいる、という現実を確かに感じさせるものでその全てが愛しい。
「イルカ先生、ありがとう。俺、今物凄く嬉しいです。
なんかもうねー、不謹慎かもしれないけど…今、ちょっとだけこの場で死んでもいい――って思っちゃった。ま、俺はこれからもイルカ先生とイチャパラな生活を送る予定なので当面、死ぬなんてことは有り得ませんが…」
「カカシさん…///
―――イチャパラ、は俺の予定には入ってませんけど、そう言って頂けるのは嬉しい、かな?」
「あれ?何でそこで疑問系ですかねー。素直じゃないんだから〜」
「大きなお世話ですー」
口では憎まれ口でもピッタリくっついた体を振りほどこうという意思は全く見られない。
だから、このまま。
……さすがに、面と向かっては恥かしいってのもあるんだけど、それは内緒。
きっと、背中合わせのままぶっきらぼうに渡してきたのだって同じ理由なんだから。でも、それだけでは伝わらないと思ったんデショ?
そんなわけ無いのに。
アナタのことで俺が見逃すことなんて、しかもソレが俺に向けられていることなら尚更、有り得ないことなのに。
ヘンなトコロで饒舌になったアナタと、俺も同じなのかもしれない。
「ねぇ、イルカ先生。一日遅れになっちゃうかもしれないけど、明日は俺に晩飯作らせて貰えませんか?」
「え…?」
「いやー、あんまり自信は無いし。個人的にはイルカ先生のご飯の方が好きなんですけどねー?」
「へ?え…、あ、いや、ありがとうございます…?」
「イルカ先生って、焦ると言葉が疑問系になるね」
「え?あ…、って、余計なお世話です」
「でも、俺たちってラッキーですよね〜」
「……何ですか、急に」
あ、拗ねてる。
でも、こんなちょっとしたことでも俺は幸せ。
だから、チョコレートなんて。
恥かしがり屋なイルカ先生は用意してないと思ってたし、渡しても恥かしがって困らせちゃうんじゃないかと思ってた。
でも違った。これは俺のミス。
だから、今日はもう無理だけど。一日遅れになっちゃうけど、俺はちゃんとアナタにバレンタインデーに気持ちを贈りたいと思う、あなたみたいに。
そして俺を驚かせてくれたアナタだから、俺もアナタを……
「だって、バレンタインデーは好きな人に思いを伝える日なんでしょ、性別関係なく。そしたら、来月のホワイトデーだって、バレンタインデーのお返しなんだから、やっぱり性別なんて関係ないじゃないですか。
バレンタインデーに俺はイルカ先生から気持ちの篭ったチョコレートを貰いました。そして、俺は…一日遅れになっちゃうけど、まぁそれは見逃してくださいね。明日、気持ちを沢山詰め込んだ晩飯を作ります。バレンタインデーのお返しなんだもん、俺はイルカ先生にお返ししたいです。イルカ先生は違う…?」
「……いや、そんなことはないですけど……」
「ほらね。俺たち、バレンタインデーとホワイトデーの両方にお互いの気持ちを改めて確認することが出来るんですよ?これがラッキー以外のなんだっていうんですか?」
「………」
「ね、イルカせんせ?」
「そう、ですね…。そう、かもしれない」
「―――お得ですね、俺達」
「うん。もう、すっごいお得!お得過ぎてイルカ先生のお気に入りのスーパーだって真っ青ですよ?」
「ははは…!うん、そう、そうですね。
―――明日、楽しみにしてますからね。カカシ先生?」
体に回していた腕にそっと手が触れてくる。
ああ、もう。これだけで幸せ。
こんな風になるなんて思わなかった。
こんな感情があるなんて、知らなかった。
アナタが全て教えてくれた。
大好き。
大好き。
言葉にするだけじゃ足りないくらい。
だから―――――
「楽しみにしてて下さーいv」
アナタにこの思いを伝えよう。
一つ一つは大した事じゃないかもしれないけれど、その行動で仕草で俺が幸せであると………
要リハビリ イタタタタ
背中合わせって爆萌えですよねっ!(力説
↑アホ
20060214