星流れる空









『心配かけたが、もう問題ない』

話せるまでに回復した五代目火影――――綱手を見舞い、
付き人であるシズネに現状の進捗状況を報告した後、外に出た時にはもう疾うに日は沈んでいた。

日が長くなったとはいえ夜の帳が下りてしまえば、
その場を支配するのは―――闇。


……明日も早いからさっさと帰らないとな


ほんの少しだけ近道をするつもりで病院から大通へ出る道を避け、裏手の草木生い茂る藪の中に足を踏み入れた。
視野が然程利かなくとも闇の中での移動は得手。

そして、全く迷いのない歩みで藪の中を突き進み抜けた先――――――






                 ***






一時はどうなるかと思ったけど……

あわや次代の火影へ。
状況が状況だけに安易に断ることも出来ず腹を括ったその矢先、届いたのは五代目火影が意識を取り戻したと言う吉報だった。
その報せに胸のうちだけで安堵したのは自分だけの秘密。

と、同時に下されたのは早急な里への帰還命令だった。

一昼夜以上野を駆けて、
里に付いた頃には既に闇が下りていた。
本来であれば病院の面会時間は終了している時間。
しかし、あの女傑が諾としてそれに従うことなどあろう筈もなく、己の到着は既に知れているだろう。


さて、一体何を言われるのやら……


共に野駆けする羽目になったまだ若さの残る仲間に短く労いの声をかけ、
カカシはそのまま木の葉病院を目指した。
道なりに行くよりは直線を突き抜けたほうが早い、そう判断したカカシは音もなく屋根に飛び乗った。既に町は寝静まっている。通常であればまだまだ賑わっている時間帯であろう歓楽街も、今はそのナリをすっかり潜めていた。

そうしてそのまま屋根づたいに病院へ駆け抜けるべく足に力を入れたその瞬間―――――






『笹竹に願い事を書いた短冊を飾るんですよ』

『カカシ先生そんな事も知らないのー?』

『ウスラトンカチ』

『俺ってば!俺ってば火影になるって書いたんだもんねー!』






それはもう随分と昔のような…
それでいてつい最近の出来事だったような…


眼前に広がったのは無数に輝きを放つ空の大河。
野駆けの時には薄くはった雲のせいで気付かなかったが、里に近づくにつれてどうやら雲は晴れていたらしい。屋根に上る事で火影岩の陰に隠れていたソレが、鮮やかに姿を現した


――――――天の川。


そう教えてくれたのは今はバラバラとなってしまった己が部下達と、その元担任。





「七夕、か…」





☆。*†*。☆。*†*。☆  ☆。*†*。☆。*†*。☆










いつものように任務を終えて、
解散を宣言すれば珍しく、3人揃って同じ方向へ駆けて行ったのがどうにも気になった。
かと言って特に引き止める術もなく、報告書の提出に受付所に出向けば目当ての人物は本日非番。

ツイてない、と胸のうちでボヤきながら
こういう日はさっさと帰るに限る、とアカデミーをあとにしようとしたその時



「―――――カカシさん?」
「イルカ先生…?」



大量の笹竹を肩に担ぎ上げ、ガサガサと葉の擦れる音と共に現れた目当てのその人―――うみのイルカの様子に、カカシは首をかしげた。

「どうしたんですか、ソレ…?」
「今日は七夕ですからね、子ども達の願いを叶えて貰うべく飾りに行くところです」
「たな、ばた…?」

機嫌が良いのかニコニコと笑うイルカから紡がれた耳慣れない言葉に、思わずカカシは眉をひそめる。

「ご存じないです?」
「ええ生憎…」

「7月7日は彦星と織姫が年に一度だけ逢瀬を赦される特別な日なんですよ」
「はぁ…」

正直言ってる意味が分からなかった。

彦星と織姫とは誰の事だ?そいつ等の逢瀬が何故子ども達の願い事に繋がるワケ?

「あの、イルカせんせ――――」



「――――イルカせんせぇ〜〜〜ッッ!!!!!」



もう少し意味が分かるように説明を…と言おうとしたところで、カカシのセリフは空を切る。



「アレ、何でカカシ先生がこんな所にいるんだってばよ…?」
「ちょっと、ナルト一人で勝手に先に行くんじゃないわよ!このバカッ!!―――ってカカシ先生!?」
「………」



揃いも揃って……。


つい数刻前に解散を宣言したはずの部下達が、
イルカ同様笹竹を持って現れた事によって、数刻前に感じた違和感があっという間に霧散する。

「お前等…なんか今日は同じ方向に行くと思ったら…、イルカ先生のお手伝い?俺の手伝いなんか何にもしてくれないじゃない、薄情だねぇ…」

「カカシ先生の何を手伝うっていうんです、いっつも変な本見てばっかりじゃないですかー」
「そうだそうだ!てかまず遅刻するのやめろってばよ…!」
「全くだな」


「お前等冷たい」


「フフ…」


「あ、ちょっとナニ笑ってるんですかイルカ先生」


堪えきれなくなったのか少しだけ肩を振るわせるイルカをカカシは見逃さない。


「ああ、ゴメンナサイ。でも、俺も遅刻はしないほうが良いと思いますよ?」
「イルカ先生までー…」

「イルカ先生は俺達の味方だってばよー!」

「別に敵も味方も無いけどな。
遅刻は確かにダメな事だけど、カカシさんはお前等をちゃんと指導して下さってるぞ?待つ事で忍耐が身に付く…と言えんこともないんだからな、多分」

「イルカ先生、ソコは『多分』が余計です」

「そうですか?」


クスクスと笑うその姿に
確信的なものを察して、カカシは小さく肩をすくめた。

どうやら自分の立場がやや劣勢らしい――――――







☆。*†*。☆。*†*。☆  ☆。*†*。☆。*†*。☆






結局あのあと有耶無耶に笹竹を火影岩の上まで運ぶのを手伝う羽目になって、
ついでだからって余った短冊に願い事まで書かされたんだっけ……



鮮明に思い出される記憶にカカシの口角は自然とあがる。



「そういえば、あの時何て書いたんだったかな…」



里の状況が一変して
誰がこんな事になると予想しただろう。

手伝った褒美だと、子ども達の若干の夜更かしには目を瞑り火影岩の上で5人で見事な天の川を眺めた。
星明かりは月明かりに比べてその光は微弱、しかし闇夜を渡り歩く忍びにとってみれば厄介以外の何者でもなかったはずだった。しかしあの時みた数多にきらめく星の川は本当に見事で…綺麗だ、とすら感じた。



明るい夜空を見上げて恨めしく思うことは数多にあれど
そんな風に思ったことなど一度もなかったはずなのに……

見事に感化されたものだと思う。

そして、

出来る事なら



共に見ることは叶わなくともせめて、




「ちょっとだけ、ね……」




ポゾリと呟いて、カカシはそのまま木の葉の病院を通り越して真っ直ぐに向かったのは―――――――――――






                 ***






――――ガサリ

木々の揺れる音に、頭より体が反応する。
里の状況が状況だけに、いつ何時どこで何が起こるか分からない。

思わず身構えた、

が、そこに現れたのは……



「カカシ、さん…!」

「イルカ先生…なんでアナタがココに??」


見慣れた姿、聞き慣れた声
しかしひどく久しぶりの再会にイルカは驚いて僅かに目を見開いた。

綱手を見舞った帰り
自宅アパートまで近道をしようとして裏手の藪を抜けた後、開けた視界に飛び込んできたのは見事な星の川だった。
すっかり失念していたが、そういえば今日は七夕……

毎年アカデミーでは懇意にして頂いてるお宅から笹竹を譲り受け、子ども達みんなで願い事を書いた短冊をぶらさげるのが定例の行事。残念ながら今年は叶わなかったが、気付いてしまったからには何となく立ち去りがたく。
イルカはそのまま火影岩へと足を向けていた。

そうして少し前に巣立った子ども達と、
その子ども達の担当上忍とこうして天の川を眺めた事を思い出していた。

そこに――――


「カカシさんこそ、何で……」


まさかその当人が現れるとは思わなかった。



「てっきりまだ里の外に……」
「ああ火影様の意識が戻ったってことで帰還命令が出たんです」
「え、ああ。そうだったんですか、お疲れ様でした」
「ありがとうございます」

「俺、さっき―――って言ってももう結構経つか。綱手様のところに顔出しましたけど」
「あ、そうなんですか?俺も顔出しに行くところだったんですけど…どうでした?」
「まだ本調子じゃないとは思うんですけど、頑固な方ですからね。多分近々に退院もぎ取るでしょうね…病院嫌いな誰かさんみたいに」
「そうですかー」

「ちょっと、スルーしないで下さいよ」

「俺は病院嫌いなんんじゃなくて、病院にいるくらいならイルカ先生の家にいたいだけですー」

「モノは良いようですねぇ」



さりげなく横に立つカカシに、イルカは小さく笑った。

久しぶりの再会のはずだった。
しかしその会えないでいた期間などまるで無かったかのようなその距離感に、不思議と気持ちは安らぐ。


「……で、イルカ先生はこんな時間までこんな所でなにを?」


チラと視線を投げかけられて
イルカは少しだけ照れくさそうに鼻の頭をカリカリと掻いた。


「カカシさん、覚えてます?」
「……?」

「昔も――見ましたよね、天の川……あいつらと」
「ええ、」


「その時の事を思い出してました…」


アカデミーの子ども達の願いが詰まった笹竹を火影岩の上へと運び上げて
みんなで其々余っていた短冊願い事を書いた―――

ナルトとサクラは嬉しそうに
サスケは最後まで渋っていたけど……

今でもリアルに思い返すことが出来る記憶。



「―――偶然ですね、俺もです」




「え…?」




思わず見上げたその顔は
あいかわらずその殆どが覆われているのだけれど、少しだけはにかんでいるのが見て取れた。
最初こそ全くつかめなかったその表情もいまや手に取るように分かる。







あの頃はまさかこんな事になるなんて思ってもみなかった―――――





でも、





「カカシさん、」

「はい?」

「今年は2人でしたけど…来年は、またみんなで見ましょうね?」

「そうですね」







                 ***















イルカ先生とカカシ先生は何て書いたんだってばよー!?


ヒーミツー

ナルト願い事ってのはな、
口にすると叶わないって言われたりもするんだぞー?



えええぇぇえええええぇぇえええええええ!!!!!!!!!!




















『みんなが健やかに 夢に向かって進めます様に  
 いつかまた彼の人と一緒に星を見ることが叶いますように   イルカ』

『いつまでも傍らに  へのへのもへじ』




























後半駆け足過ぎた…

20120707










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