おめでとう大作戦!!
「いいかお前たち、これはもう特Sランク級の任務だと思って貰って構わない。絶対、気を抜くなよ?」
「任せとけってばよ!」
「はい!」
「愚問だな…」
珍しく時間通りに集合場所へと姿を現した銀髪の上忍から齎された任務内容に、はたけカカシ率いる第七班――ナルト・サクラ・サスケは一様に頷いた。
**** *** ** *** ****
少しずつ、春から夏へと季節が移ろおうとしている事を肌で感じるそんな季節。
朝目覚めると、以前であればまだ薄暗かったその景色も、この頃ではすっかり明るくなっていた。カーテンの隙間から僅かに差し込む朝日が少しばかり眩しく感じられる。
「…絶好の洗濯日和だな」
勢いよく引き開けたカーテンの向こう、清清しいほどの青空を望みイルカは満足そうに呟いた。
いつもであればアカデミーで授業の準備をしていてもおかしくない時間、アカデミーの子供たちが気にならないといえば嘘になるが、それでもサラリーマンの性というか何と言うか。
『お主、少し休め』
『は…?』
いつもの感じで向かった火影の執務室。
そして入室した途端、開口一番の洗礼に思わず素の声が漏れた。
『イルカよ、お主相当有給が溜まっているようではないか』
『え…?あ、いや…どう、かな…あんまり気にしたこと無いです』
『さっき事務の方から報告があったわい。有給消化じゃ、来週末は自宅待機。よいな?』
口調だけは問いかけるが、その真意に拒否は許されない。
それどころか本人の与り知らぬところで既に休暇届は受理されていた。自分に任せていたのでは休暇届の申請を忘れた体でそのまま曖昧に流そうとする事が多分読まれていたのだろう。
何だかんだで幼い頃から随分と目にかけて貰っていた為か、外面だけで無い部分まで確り性格を把握されてしまっている。
「…三代目には頭上がんないよな、俺…」
イルカは先日のやり取りを思い出して、頭を掻いた。
しかし、その反面連休でも無ければ中々出来ないことも実は沢山あるわけで。
頼まれれば断れない性分も相俟ってここ暫くは家の事が疎かになっていた。多分、それすらも見透かされているのだろう、粋な計らいに嬉しいような恥ずかしいような。
何だかんだ昔から口煩く言われてきたが、それも全ては大きな優しさが生み出すもの。それが分かるようになったからこそ、余計に少しくすぐったい。
「―――さて、やるか!」
ここ数日は寝に帰るだけだった家の、窓という窓を開け、まだ少し冷気の残る風を通す。家の中の停滞していたモノが一掃されるようだ。一瞬にして空気が変わった。
家とは空気を淀ませてはいけない、停滞し淀んだ空気は体にも心にも良くない。
そう、教えてくれたのは誰だったか。
窓を開放したまま、ついつい溜め込んでしまった洗濯物を片付ける。
幸い、風に冷気はあるものの日の光がそれを緩和し、むしろ洗濯物を乾かすには最適といえた。
庭にある物干しと洗濯機を一体何往復しただろう、ようやく全てを干し終えて小休憩。
ふと、時計を見れば既に昼を回っていた。
そこで初めて気づいた空腹感。
「もう、こんな時間か…」
無意識に腹を擦りながら、思案するは本日の献立。
さて、どうしたものか。普段であれば適当に何かを作って簡単に済ませるのだが、
さすがに今日は…
「メンドくさいな…」
朝から何だかんだで動き回っていたため、どうにも作ろうという気にならない。
イルカはチラリと空を見上げた。
相変わらず、空は青い。
庭に干した洗濯物が乾くまではあと少し。
―――コレなら、大丈夫だろ……
開け放っていた窓を閉め、出勤時に使っている鞄から財布だけを取り出して玄関に向かう。
きっと今頃、子ども達は午後の授業を受けているに違いない。
そんな中、自分が今から外に飯を食いに行こうとしていることを子供たちが知ったら、一体どんな反応をするだろう。想像して、イルカは小さく苦笑した。
きっと先生だけズルイだの、いいなぁだの、総顰蹙をかうに違いない。
容易に想像できるその姿に、イルカの口元は自然と上がる。
そうして、脚半を履いて玄関の引き戸へと手を掛けたその時――――
……?
コチラに向かってくる気配に気がついた。
しかも、それは……
「サクラ…?」
玄関を開ければ案の定、
少し前まで自分の生徒だった、名前のとおり綺麗なピンクの髪をしたくのいちのタマゴがコチラに向かって丁度歩いてきているところだった。
「あ、イルカ先生…!」
「どうしたんだ、珍しいじゃないか?1人、なのか…?」
自分を見つけて駆け寄るその姿に、イルカは首をかしげた。
通常この時間なら、受付所から担当上忍によって与えられる任務にチームで赴いている筈。
「―――あ!今日はお休みなんですよ」
イルカが今迄受け持った子供たちの中でも頭の回転が早いほうに属するサクラは、イルカの疑問を容易く察知したか、ニコリと笑った。確かに、アカデミーの手を離れた子供たちの管理は各担当上忍に一任される。
サクラの担当は上忍の中でも屈指と謳われる、はたけカカシその人。
体が資本の忍にとって、休暇を取ることは任務と同じくらい実は重要なことになる。常に万全の態勢であるためには休養も必要なのだ。
自分はどうもその辺りを疎かにしがちだが、
と、心の中でだけ付け加える。
「頑張ってんな、お前達」
「―――で、コレ。
お母さんと一緒に作ったんだけど、ちょっと多めに作りすぎちゃって…」
「何だ、コレ?」
差し出された小袋。
ピンク色のリボンで結ばれたソレは自分には随分と似つかわしくない可愛らしい小さな花があしらわれていた。
「クッキーです、良かったら食べてください」
「わざわざ届けてくれたのか?って、俺が家に居るって良く分かったなぁ」
「え?あ、…えっと、玄関にぶら下げて置けば良いかなって…」
どうやらそこまで考えが至っていなかったようだ。
少しだけ言葉に詰まる元生徒の姿にイルカは小さく笑う。
「まだ少し読みが浅いな、サクラ。
―――あとナルト、気配消すならもう少し上手くやれ!この調子だとサスケも、居るんだろ?」
サクラの後方、
イルカ宅の門前の垣根の影、先程からチラチラと見え隠れする見知った気配。
一体いつになったら出てくるかと思っていたが、気配だけは隠しきれて居ないくせに一向に出てこようとしないソレに何の意図があるのか。
「あ、イルカ先生っ?」
「何やってんだ、お前ら」
サクラの横を通り抜け、垣根の前。
「よ、よぉ!イルカ先生、偶然だってばよ!」
「……オマエなぁ」
「どうも」
「サスケまで、一体どうした…?」
案の定、
そこには見知った姿が二つ。
「サクラ」
「はい」
「お前も気付いてただろ本当は」
何に、とは言わない。
「…はい。
―――だって、ナルト駄々漏れなんだもん!このバカナルト!」
「えぇ!?オレぇっ!!」
「ウスラトンカチ」
「んだとっ!」
「コラ、人ン家の前で喧嘩すんな。
―――で、お前たち。俺に用があるから来たんだろ?でも、俺はこれから少し遅い昼飯を食べに行くところだったんだ。用件なら後で聞くから、お前らも一緒にどうだ?」
「え?イルカ先生の奢り!行く行くっ、行くってばよーっ!」
「ちょっ、ナルト!アンタねぇ――!」
「サクラは都合悪いのか?」
「え…?
あ、いえ…そういうわけじゃ、ないです、…ケド」
「サスケ、お前は?」
「別に…」
「じゃあ、決まりだな!」
ニカッっと笑うイルカに、
三人は一度だけ顔を見合わせ、ほんの少しだけ困ったような顔を一瞬浮かべて
でも嬉しそうに付いていった。
*** ** ***
「―――お前ら、こんなところに居たの?ちょっと探したよ」
結局子ども達を連れて、イルカが自分の食事の場として選んだのはメニューの豊富なファミレスだった。
どうやら自分以外は既に昼食を摂っていたようなので、子ども達には好きな甘味を選ばせてイルカ自身はしっかり昼ご飯を頂いた。
そうして腹の具合も収まり、子ども達もひとしきり甘味を堪能したところで
さて用件を―――、
そう切り出そうとしたまさにその時、
「カカシさん?」
子ども達の担任上忍師、―――はたけカカシが姿を現した。
「どうも、こんにちわ。イルカ先生」
「こんにちわ」
ペコリと会釈され、反射的に会釈で返す。
かと思えばカカシはイルカから視線を外し、イルカの向かいに三人並んで座っている子ども達を見た。
「お前ら、なぁにやってるかなぁ…。
てっきりイルカ先生の家に居ると思ったから、気配がないと分かりつつもチャイム押して少し待っちゃったよ、俺。しかも、ちゃっかり甘味奢ってもらっちゃてるし」
各々の前に並ぶ空の器を見て、カカシは困ったような呆れたような声音で後頭部を掻く。
しかしそれにいち早く反応したのは子ども達ではなく、イルカだった。
「あの、カカシ先生も俺に用ですか?」
「……『も』?」
カカシが訝しがるようにイルカを見る。
「いや、3人揃って家に来てまして……」
イルカが子ども達のほうへと視線をずらすと、それに倣うかのようにカカシも再び子ども達へと視線をずらす。
その担任と元担任の視線に、
ナルトとサクラは何かを誤魔化すかのように笑みを浮かべ、サスケは気まずさからかそっぽを向いた。
どうやら自分達から話すつもりはないらしい、
互いにそれは理解したのかカカシは小さく肩を竦めてイルカを見、またイルカもそのカカシの真意を理解して、ココまでに至った経緯を簡単にカカシに話して聞かせた。
「――と、まぁそういう訳で、取り敢えず俺の昼飯に付き合ってもらったんですけどね」
「なるほど、ね」
合点がいったと頷くカカシ。
そうして再び、子どもたちを見る。
「まぁ、俺もお前達のほうで上手くやれるだろうと思ったからあんまり詳しい指示は出してなかったしね。今回はギリギリ合格、一応当初の目的も果たしてるし」
「あの、カカシ先生…?」
「―――イルカ先生、」
「はい?」
「時間が勿体無いんで、良いですか?」
「え…?」
「ほら、お前達も行くよ」
「おうっ!」
「はーい」
「……」
どうやら、今回の子ども達のいつもと違う様子の原因にはカカシが一枚噛んでいるらしい。
そして、そのカカシの意図せんところを子供たちも理解している。
自分だけが、蚊帳の外。
何がなにやら分からないまま、
ドサクサに紛れて食事代はカカシに支払われてしまった。あとで絶対返さないと、等と頭の隅に留めながらそれでも、手を引かれるがまま、子供たちと共にイルカはカカシに付いていった。
……一体なんだってんだ?今日は…!?
そうして、見慣れた風景を歩いていけば……
「ここ、」
「いーからいーから」
真意を問おうにもカカシは一向にのらりくらりとかわすばかり。
子供たちに至ってはどうやらこの奥に目的地であるらしく、ナルトを筆頭にさっさと駆け出していってしまった。
「あの、カカシ先生…?」
「大丈夫大丈夫、悪いようにはしませんから。もう少しだけ、付き合ってください」
「はぁ…」
そうしてやっぱりもう見慣れた風景をひたすら歩いて、
そういえば、今頃子供たちはなにをしているだろう、もう授業は終わって良い時間のはずだかそう言えば…
等と色々思考を巡らせていたら
「はい、到着〜」
「え?」
カカシがピタリと足を止めたそこは――――
「教、室…?」
そう、イルカは何でかアカデミーに連れてこられていた。
一体アカデミーの何処に行こうというのか、一向に答えてくれないカカシにただ大人しく付いて来たイルカは、やっぱりカカシの意図が分からなくて首を傾げる。
「あの…」
「いーから、いーから。ホラ、開けてください」
その表情の殆どを隠しているくせにその滲み出る楽しそうな気配は一体何なのか。
全くもって状況は掴めないが、
まぁそれでもカカシが自分に対して害ある何かをするような人でない事くらいイルカも充分に分かっている。
自分がこの扉を開けることで今までの経緯に説明がつくのなら、
イルカは思い切って毎朝のソレと同じように、
ドアをスライドさせた――――――
その瞬間、
乾いた火薬の音と共に
『イルカせんせー!誕生日、おめでとーーーー!!!!!!』
**** *** ** *** ****
「提案者はね、あなたの教え子達ですよ」
帰りの道々、
ネタバラシのしてくれたのは自分をアカデミーまで連れて行ったカカシだった。
「アイツらが…?」
アカデミーの教室は
イルカの知るいつものそれとは随分と様相を違え、折り紙で作られたリボンやオーナメント、黒板には多分自分を描いてくれたのだろう似顔絵と『たんじょうびおめでとう』の文字。
普段であれば持ち込み禁止のはずのお菓子とジュースが用意されていた。
「イルカ先生の誕生日が近いから驚かせてやろう、って話だったらしいです。
それでなんか良い案は無いかとナルトの所に話がきて、面白そうなんで、俺も一枚噛ませて頂きました」
目を弓なりにして笑うカカシにイルカは苦笑した。
「もしかして、俺が今週末連休になったのって…」
「はい、火影様に根回ししました。
出来るだけ悟られないように、って話だったんで。あなたの場合誰からお祝いされるか分かったモンじゃないですからね、だったら家に軟禁してしまえと。まぁ念には念を入れてアイツらをイルカ先生の監視役に任命したんですが、すっかり懐柔されちゃって」
「軟禁、って物騒な…。それに、俺は別に懐柔したわけじゃあ――」
「知ってますよ。
それに、一応今日がイルカ先生の誕生日だってあなたに悟らせないのがあいつ等の目的だったわけだし、まぁ概ね合格です」
「ああ、だからあの時」
「そういうこと」
ファミレスでのやり取りにようやく合点がいった。
「でも、イルカ先生?」
「何ですか?」
「あなた、本当愛されてますよねぇ〜」
「何ですか、急に…」
「イイエー、別に」
「……」
「カカシさん、」
「はい?」
「俺の腹はさすがに幾ら昼が遅かったとはいえ、菓子じゃぁ満たされませんよ?」
ニッ、と笑うイルカの
その言葉の真意にカカシは一瞬驚いたように目を見開いて、でもその次の瞬間には嬉しそうに笑って、
「了解しました、じゃあ俺のとっときのお店ご案内しましょう!」
「それは楽しみですねぇ〜」
「イルカ先生、」
「はい?」
「誕生日、おめでとう」
「はい、ありがとうございますv」
当日UP間に合ったーー!!
フリーはカカイル全面押しだったので
コッチはみんなに愛されるイルカ先生を
テーマにしてみた
後半時間切れで駆け足で申し訳ないです
20110526