朝起きて、先ずすることは 冷水で顔を洗い髭をあたり歯を研くこと。 繰り返される日課。 その合間、視界に僅かに映るカレンダー。 赤マジックによって大きく主張されたソレに思わず小さく笑みが零れるが、 それはそれとして日常は待ってはくれない。 時は常に誰に対しても平等で、 ゆっくりとそこに思いを馳せる余暇などあるはずがない。 出来るだけ余裕を持って行動するよう心がけてはいるがそれでも、限度というものがある。 慣れた手つきで髪を結い上げ忍装束へと着替えて、 昨晩の残りを掻っ込んで、持ち帰ってきた書類の入れ忘れがないか再度確認。 仕事用の鞄を引っ掛けそのまま家をあとにする。 いつもと変わらない。 何も。 だが―――――― |
【Thank you for coming to the wolrd】 |
| 「…一体何なんだ?」 イルカは僅かに眉をひそめながらポツリと呟いた。 朝から続く状況が理解できず思わず声となって漏れた本音。 『イルカ先生ありがとー!』 『さんきゅーな、イルカ』 『いつもありがとうございます』 アカデミーへの道々通学途中の子どもたち。 職員室で、廊下で、すれ違う同僚たち。 受付所を訪れる戦忍たち。 その物言いは違えどみな 何故か顔を合わせればイルカに謝辞を述べる。 一体なんなのか、 何か特別なことをした記憶はない。 なのでお礼を言われるその理由がそもそも分からない。 なのに、それは比喩でも誇張表現でもなんでもなく本当に一日中続いた。 全く持ってその意図が分からず、 子ども達や同僚、訊ける相手にはその意図を尋ねもした。 しかしその問いに返ってくるの応えは――――――意味深な、笑顔。 悪戯のつもりか、 はたまた揶揄ってるのか、 それにしては随分と規模が大きすぎる。 まるで全員が示し合わせたかのような…そんなことが、そう簡単に出来るはずがない。 しかも自分が標的になる理由も分からない。 結局、 ――――――イルカは考えることを放棄した。 悪意が感じられるものではない、 意味が分からないまま受け続ける感謝の言葉は腹の奥をどこかむず痒くもさせるが、それでも時の流れはあくまで平等。待ってなどくれない。片付けなければならない書類の山は、消化しなければ累積されていくばかり。 良くも悪くも人は『慣れる』生き物。 困惑は徐々に希薄に、そしてそれは常用会話に成り下がる。 最初に抱いた戸惑いも一日が終わる頃にはすっかりその形を潜めていた。 そして、 「イルカせーんせ」 すっかり夜も更けた時間、 里長より直々に拝命した任務で里を空けていた彼の人が、小さくガラスを叩く音と共に窓から姿を現した。 鮮やかな銀色が月明かりにキラキラと輝く。 「カカシさん、」 名を口の中で転がすかのように小さく呟けば、 声など届いているはずがないのに、唯一伺わせる右目を弓なりして本当に嬉しそうに笑う。 一瞬その笑顔に絆されそうになるのは悔しいかな惚れた弱みか… そんなことを考えながらイルカは立ち上がり窓際へと歩み寄りそのまま開く。 器用に窓枠へ両腕を引っ掛けて頬杖をつくカカシを見下ろしながら、イルカは小さくため息をついた。 「いい加減玄関から入ること覚えてくださいよ……持ってるんでしょ?鍵」 「いやぁ…つい」 「つい、じゃないですよ…」 これじゃあ何の為に渡したんだか分からない。 忍に対して物理的な鍵など殆ど意味をなさいのはイルカ自身も理解している、でもこれはそういう意味ではない。聡いカカシが分からない筈もなかろうに。 「スミマセン、どうしても早くイルカ先生の顔みたくて」 「アンタねぇ…」 確かに玄関と窓は対極の位置にある間取りだがそれでも大した距離はない。 所詮男の一人住まい、部屋の広さなどたかが知れている。 窓から入ろうが玄関から入ろうがそこに大きな時間的差異はない。 そんなイルカの思考を汲み取ったか、 カカシはちょっとだけ眉尻を下げて笑った。 そしてその表情の変化に気付かないイルカではない、そのまま僅かに窓から身を引いた。 「全く。 ……今日は良いですけど、次はちゃんと玄関からお願いします」 「はぁい」 暗に入室を許可すると慣れた手つきで器用に脚絆を脱ぎながらカカシはいとも簡単に窓枠を乗り越えた。 「よかった」 「――何が、ですか?」 そのままベストをかけるハンガーを取りに向かおうとカカシに背を向けたその時、背後から聞こえたその声色に滲んだ安堵と喜び。 意味が分からなくてイルカが首をかしげ振り返ろうとしたとき、急に肩を掴まれた。 「…ッ!?」 いったい何が起こったのか、咄嗟に判断が出来ないくらいの早業でいきなり見つめあう体制を取らされて、さすがのイルカも言葉を失った。しかもご丁寧に、額あても口布も取り払われている。 もう幾度となく見てきた、自分以外に知る者などごくわずかであろうその素顔は何度見ても悔しいくらいに均衡の取れた顔立ちで、自然と心拍数が上がることを止められない。 しかし、それを気取られるのはさすがに癪で。 「イルカ先生、」 「な…ん、ですか…?」 出来るだけ平静を装う。 近づいてくるその左目に宿された焔の瞳は閉ざされたまま。 でもイルカはカカシ本来の瞳が好きだった。 静かな水面のようなそれが、色に歪む瞬間を知っている―――― 「ありがとう」 「―――え…?」 あと、もう少し その時――――それはイルカの予測を逸れた。 イルカの耳元。 囁かれたその言葉は…… 「貴方も、ですか?」 どこかで力が抜けた。 朝からずっと意味も分からず言われ続けた、同じ事を意味する言葉達。 それをまさかこのタイミングでまた聞かされる羽目になるとは…… 「―――どういたしまして」 「あれ…?」 「なんですか…」 「さすがにちょっと過食気味?」 「…?」 「でも、今日は貴方にいっぱいいっぱい感謝する日だからね。ちょっと過食位でちょうど良いです」 「?」 意味が分からず眉を顰めるイルカとは対照的に、カカシは満足げに笑みを浮かべる。 しかしそこでイルカは一つの結論に辿り着いた。 「…今日の出来事はアンタが仕組んだのか…」 「ええ」 「色んな人巻き込んでナニやってんですか」 「だって、今日は特別な日だもん」 そう言ってチラリと動いたカカシの視線の先には デカデカと赤マルで主張されるカレンダー。 ああ、忘れていた。 朝一度確認していたはずなのに…… 「生まれてきてくれてありがとう、――――イルカ先生。 みんなみんな貴方がこの世に生を受けたことに感謝してる、だからみんな手伝ってくれたんだ…」 本当は一日中俺が独占する予定だったんですけどね、 悪戯っぽく笑うその表情に思わずイルカもつられて小さく笑ってしまった。 一体何のつもりかと思えば… よくみんなも乗ってくれたものである。 「こちらこそ…その、ありがとうございます。 明日みんなにもお礼言って回らないといけませんね…こんなに沢山の人に祝われたのは初めてですよ、俺」 「それだけ貴方がみんなから愛されてるってことですよ」 「…なんか照れますね」 「まぁ!イルカ先生を一番愛してるのは俺ですけどねッ!」 「はいはい」 全く、この人には適わないな…… イルカはどこか照れくささが抜けない表情で嬉しそうに笑った――――――――― |
| 「…ところでイルカ先生」 「なんですか?」 「さっきちょっと期待してた?」 「?」 「向かい合った時」 「――ッ!///」 「今日はもう遅いから明日改めてケーキ買ってイチャイチャしましょーね!」 |
イルカ先生、お誕生日おめでとう!!
今回は某笑顔動画のイル誕企画に参加させて頂きました
そちらは動画の都合上文字数制限がどうしても発生してしまうので
サイトにてロングバージョンをうp
ベースは参加させていただいた動画と変わりませんが
書いてるうちに話がズレていくのはいつのものことなので
まぁその辺はご愛嬌ということで
動画へはブログからリンク貼らせて頂きますので
宜しければそちらもどうぞ
沢山の素敵なカカイラーさんと同席させて頂きました
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