みんなで一緒に
10月10日。
何が出来るわけでもない。
昔まだ自分が幼かった頃にしてもらったことは何一つしてやることは出来ないけれど、
丸いケーキがあるわけでも、見目に豪華な料理があるわけでも、多くの人たちとそれらを囲むわけでもないけれど、
それでも知り合ってからは毎年、2人でささやかながら食卓を囲んだりしたものだ。
大抵一緒にいる時はラーメンで済ませることも多いソレも、その時ばかりは大した巧くもない料理の腕を振るったりもした。
だから、今年も…
―――なんてのは、俺の独りよがりだったのかなぁ〜……
+ + + + + + +
今日は朝から受付業務。
見知った顔を何人も見送って暫く、漸く人が疎らになり始めたのを見計らい簡単な昼食を済ませて、再び受付カウンタに戻る途中、
「イルッカせんせ〜〜ッッ!!!」
「うぉッ!
――コラ、ナルト!お前、いきなり突っ込んでくるなって言ってるだろ!?」
唐突に訪れた衝撃に思わず前のめりになりそうになるのを何とか足腰に力を溜めることで堪えて、イルカは腰にまとわりつく金髪を拳で叩く。しかし、怒られたって何処吹く風。
アカデミー時代最も手を焼いた問題児、ナルトは一体何がそんなに楽しいのか極上の笑みを浮かべながら離れることなくイルカに纏わりついていた。
今日はナルト達にも任務が入っている。担当上忍師にソレを手渡したのは何を隠そうイルカ本人だった。
それほど難易度の高いものではないが、こんな早くに終わる任務でもないはずだ。
「イルカ先生、こんにちわ〜!」
「………どうも」
ナルトに僅かに遅れて、サクラとサスケも姿を現した。
突然の元教え子達の登場に、さすがのイルカも驚いて苦笑する。
「おいおい。どうしたんだ、お前等。任務はもう終わったのか…?」
「任務はまだだってばよー?――ていうか俺達、まだ任務がどんなのかだって聞かされたないし…。
今日もカカシ先生遅刻なんだ。イルカ先生からも言ってくれよー、遅刻するなって!もう有り得無い位、カカシ先生寝坊スケなんだってばよ〜」
「ホント、いくらなんでもこう常習的じゃあね…」
「時間のムダになる……」
有り得ない、とそれぞれ憤慨する姿を尻目にイルカは首を傾げた。
サスケやサクラまでもが怒りを露にするのだから余程のことなのだろう。しかし、カカシは今日も間違いなく時間通りに受付に現れている。
あのまま真っ直ぐに集合場所に向かっていればいくら子供達の足とは言え、本来なら既に任務に着いてていい時間だ。そうでなくても、今日の任務は里内での仕事で、移動に手間はかからないだろうに。
「カカシ先生、来てないのか?」
「そうなんだってばよ!
だ〜か〜ら、俺たちが代わりに任務聞きに来たんだってばよ!今日は絶対、早く終わらせてやるんだからな!!
ね〜、サクラちゃんっvv」
「……?」
その言い回しに首を傾げるイルカに気が付いたのか、サクラが慌てて付け足す。
「あ。その…、今日ってナルトの誕生日じゃないですか!
だから、折角だからみんなでお祝いしようかなって思って…。で、イルカ先生―――」
「お前等、こ〜んなトコいたの?」
サクラの言葉を遮るかのようなタイミングで現れたその上忍に、驚いたのは子供達だけでなくイルカも同様だった。
姿を見るまで全く気配を感じなかった。これが上忍の実力と言うものなのだろうか、と頭の隅で考えれば、イルカのそんな思考などお構いなしに子供達は己の師に不平不満をカカシに有りのままぶつけていた。
「カカシ先生、遅いってばよ!!
先生があんまり遅いから俺たちが代わりに任務聞きに来てやったんだからな〜」
「今まで何処で何してたんですか、先生!」
「……ウスラトンカチ」
「…ん?
あー、いや、今日は巡り会いの神秘について…」
『はい、ウソ!!』
「……下らない」
見事にハモるサクラとナルト。そして、止めと言わんばかりに呟くサスケ。
どうやらこれがカカシ班のいつもの姿らしい。そのやりとりに、イルカは苦笑した。
まるでバラバラだった3人が自分の知らない所でいつの間にか随分と親しくなったものだ、と思う。
「さっさと任務終わらせるんだってばよ!」
「…ナニ?ナルト、珍しくやる気じゃないよ、お前」
「ムッ!俺ってばいつでも全力投球だっての!」
「そうだっけ?」
「ムキー!そうだってばよ!!」
「……行くぞ」
「あ!もう、ナルト行くわよ!
カカシ先生も早くッ!!イルカ先生、じゃあ、またあとで!――-サスケ君、待って〜」
「おう、気ィ付けてな〜。
―――カカシ先生もお気をつけて」
「あ、はい。何かスミマセンね、子供達が押しかけて来て…」
「別に構いませんよ、俺も子供達に会えるのは嬉しいですから。あ、でも遅刻はもう止めて欲しいです。折角、受付には時間通り来てるんですから……」
「以後気をつけます」
お願いします、とイルカが笑ったところでいつの間にか随分と距離が離れてしまっていたらしい、遥か前方からナルト達のカカシを呼ぶ声が聞こえた。
とはいえ、カカシにしてみれば大した距離ではない。必死に呼び掛ける声にヒラヒラと片手を振り、
「それじゃあ…」
「はい」
瞬間イルカの前から姿を消した、かと思いきや、その姿は既に遥か前方。ナルト達の少し後方、カカシは相変わらず猫背でヒョコヒョコと歩いていた。
しかし、ようやく任務に向かった4人の姿を見送るイルカのその笑顔がどこか淋しげだったことに、本人さえも気がついていなかった。
+ + + + + + +
10月10日はナルトの誕生日。
今年もてっきり一緒に過ごすことになろうかと思っていたのだが、
『折角だからみんなでお祝いしようかなって思って…』
サクラのその一言がイルカは凄く嬉しかった。
もう、ナルトは独りじゃない。尊敬出来る師を得て、信頼のおける仲間も得ることが出来た。
しかし嬉しい反面、どこか淋しくて……
「……はぁ〜」
「―――どうしたんですか、溜息なんかついて?」
「ッッ!?!?!?!?」
受付業務も夜勤との交代を終え、独り家路に着いていたイルカは、突如として背後に現れたその気配に思わず前のめりにバランスを崩しかけた。
しかし、何とかつんのめるという失態をだけは堪えて、慌てて振り返った。声の主からして、誰が、なんてのは問う必要もない。むしろ問わねばならないのはその理由。
「いきなり背後に立たんで下さい、カカシ先生!」
朝と昼と、本日、二度ほど顔を合わせた上忍は一体いつの間に現れたのか、
その艶やかな銀髪を夕日で赤く染上げながら振り返ったイルカと向き合うように立っていた。
「あー、スミマセンねぇ。
でも、報告書提出がてらイルカ先生を呼びに来てみれば、先生は既に交代して帰ったって言うじゃないですか。だから、急いで追って来たんですよ。そしたら今度は独りで溜息ばかりついてるんですから、気にならないという方が無理ってもんです」
「……そんなに、溜息ついてましたか?俺…」
「ええまぁ、俺が気になる程度には……」
「それは…、スミマセンでした」
「いや、別に謝ることじゃないと思うんですけど…。
―――それより早く行きましょう。あいつら、待ってますよ」
「え?あ、うわっ、ちょ――カカシ先生!?」
ぐい、と腕を掴まれたかと思いきや、そのままスタスタと歩き出すカカシにイルカは何度かバランスを崩しかけながらそれでも何とか付いて行った。
一体何処へ行こうというのだろうか?
あいつらが待っているというのは、きっとナルトたちのことを指しているのだろうことは容易に想像できる。しかし、彼等がイルカを待つ理由が分からない。
そもそも、今日は……
「あの、カカシ先生一体何処へ…」
見慣れた町並み。
「さあ、着きましたよ」
「……あの、」
カカシの訪れた先は、
「ここ俺の家、ですよね…?」
「ええ、そうですねぇ」
「あの、話が見えて来ないんですけど…?」
「まあまあ」
朝、出勤する前に確かに閉めたはずの鍵は何故だか開いていて、本来家主である筈のイルカよりも先にさっさと中に入ってしまうカカシに何も言えないまま後に続く。
そうすれば、奥から―――
「あ、カカシ先生おっそい〜!
イルカ先生、ちゃんと連れてきてくれましたー?」
「連れてきたよ〜。ってか、ココはイルカ先生の家なんだから連れてこないわけ無いデショ?」
「……ここに決めたのはてめぇだろ」
「……サクラ?サスケ?」
昼間別れたはずの顔触れにイルカは首を傾げた。
「先生、遅いってばよ〜っ!」
「ナルトまで…。
一体どうしたんだ、お前等…?」
「どうしたって、勿論ナルトの誕生会ですよ!ホントはね、どこでやろうか迷ってたんですけど、カカシ先生がイルカ先生の家がいいんじゃないかって」
「……迷惑、だったか?イルカ先生、もしかして……?」
「あ、いや!そんなことは無いよ、気にするな。突然だったからちょっと驚いただけだよ」
「突然、ってカカシ先生ッ!イルカ先生に何にも言ってなかったの!?」
「このウスラトンカチ」
「コラコラ、俺は気にしてないから…」
「まあ、イルカ先生もそう言ってることだし」
いつの間に準備したのか手狭な自宅はその様相を随分と一変させていた。
こりゃあとで掃除が大変だな、とか思いながらもそのケーキや料理を囲むナルトやサクラ、表情には出さないようにしているがサスケも、みんなが楽しそうな姿は見ていて微笑ましい。
一体何処で調達してきたのか丸いケーキにその年の数だけ灯されたローソク。
きっとナルトにとって今までの中で一番の誕生日になるに違いない。
「イルカ先生」
「カカシ先生?」
「スミマセンね、勝手にお宅に上がり込んだりして…」
「ああ、これは一種の不法侵入ですね」
「……ハハハ」
「まあ、別に気にしてませんけどね。どうせ、盗まれるようなものもありませんから」
「イルカ先生、そりゃ幾らなでも危機管理意識が低すぎますよ。俺が言うのもどうかと思いますけど…」
乾いた笑いで誤魔化すカカシにイルカは思ったままに肩を竦めた。
今はそれよかこうしてみんなで囲む食卓の方が楽しくて嬉しい。
「ねぇ、イルカ先生」
「何ですか?」
「ナルトはね、これからもっと多くの仲間を得るだろうと思いますよ。もう、あなたが心配しなくてもアイツはもっともっと強くなる。サクラやサスケだって居るんです。まあ、今は俺も居ますけど、俺なんてのは所詮、今時期だけですから…」
「カカシ先生…?」
「確かにアイツはあなたの元から巣立ったんです。
こうして一緒に過ごせる仲間も得ることが出来ました。淋しいかもしれないけど、これは必要な過程なんですよ。それに、あなたの中でナルトが、そして、ナルトの中でのあなたの存在価値が変わるわけじゃない。だから、さっきみたいに溜息ばかりついてちゃダメです」
「カカシ先生、気付いて…」
そう、イルカは何となく淋しかったのだ。
ナルトが多くの仲間を得て認められていく姿を見て、嬉しい反面、離れていくその姿淋しかった。
「少しは周りを見て下さい。ナルトだけじゃない、あなたを見てるのはナルトだけじゃありません。だから、今までずっと気にかけてたソレを少しだけ周囲に広げてみてくださいよ」
「……カカシ先生」
ね?と笑うカカシにイルカは「そうですね、そうします」と小さくはにかんだ。
「あー、カカシ先生ってばイルカ先生となにコソコソ話してんだってばよ〜ッ!」
「別に何でもな〜いよ」
「そうそう。大人の話だ、気にすんな」
「何だヨソレ〜〜ッッ!!」
「そうやって大人だけって言うのずる〜い」
「………」
サスケさえも少し眉を顰めて不満を表しているその姿に、イルカとカカシは目配せだけで苦笑した。
「なあ、ナルト」
「ん?」
「誕生日おめでとう。これからも頑張れよ!」
「おう、任せてくれってばよ!さっさと火影になってイルカ先生にラクさせてやるからなッ!!」
「何?俺はラクさせてくれないわけ?」
「カカシ先生はいーっつも遅刻ばっかだろ。そんなんじゃ、ダメー」
「ま、普段の行いの差ってヤツだな……」
的確なサスケの一言でナルトとサクラは爆笑し、イルカも遠慮がちにクスクスと笑っている。
そんな姿を見て、カカシは小さく肩を竦めるだけだった――――
言い訳はすまい…
とりあえずナルトHappyBirthDay!!
20041010