聖なる夜









「イルカ、」
「スミマセン、力及ばず」

「―――いや、こうなるであろうことも予想はできた。
それでもお前に行かせる事を決めた私の責任だ、悪いことをしたな。お前には嫌な役をさせた」

「いえ、そんな事は――」
「状況が状況だ、ゆっくり休め…と言ってやれなくて悪いが」

「心得てます」
「お前は少し物分りがよすぎるな、まったく…少しはナルトやカカシにも見習って欲しいもんだよ…」

「え…?」
「いや、何でもない。ありがとうな、イルカ」

「あ…綱手様っ!?」





+ + + + + +





イルカが雲隠れの隠れ島にナルトを足止めする任を火影から拝命して幾許、
結果としてナルトを足止めする事は叶わず、今日に至る。

今は亡き自来也との修行を終え、里に戻ってきたナルトの姿に暫く見ない内に随分と大きくなったとイルカはその時確かに感じていた。しかし、それは見た目だけの話ではなかった。


「大きくなったな…、ナルト」


幼い頃、
独りアカデミーの隅にあるブランコに腰掛けていたあの小さな背中がまるで嘘のように、
凛と立つ姿はもう一人前の忍び。


『憎しみも痛みも全部オレがまとめて引き受ける!!オレの役目だ!!』


確固たる意思。
頑として譲らない姿勢。
真っ直ぐに己を射抜く視線に、あの時既にイルカは己ではナルトの足止めにならないことを悟っていた。

何を言おうとも、
どう画策しようとも、
ナルトは戦場に向かうだろう―――絶対に。


本当は分かっていた。
自分ではきっとナルトを止められない。
でも、どうしもて伝えたい事があった……



「本当に…デカくなりやがって…」



ナルトは強くなった。
それでも、自分より強くなっている事は分かっていても、尚―――






「大丈夫ですよ、ナルトなら」

「っっ!?」






居るはずの無い、
しかし、絶対に聞き間違える筈のないその声。
慌てて振り返るイルカの前に現れたのは―――

「カカシさんっ!?!?」
「はぁい、こんばんわ。イルカせんせ」

艶やかな銀髪を月明かりに輝かせながら、
少し猫背気味に立つ上忍―――はたけカカシの姿だった。

「なっ、なんで!?」
「ちょっと気になる事がありまして、来ちゃいましたv」
「き…『来ちゃいました』じゃないでしょう!!何やってんですか、アンタ―――」

驚き慌ててカカシに詰め寄るイルカ。
しかし、詰め寄ったところでその違和感に気づいた。

「…カカシさん、まさか…」
「あ?バレちゃいました?」

「アンタ、こんな時にチャクラの無駄使いして何やってんですか!!」
「だっ大丈夫、大丈夫!ちょっとコッチは今、戦況が落ち着いてまして…交代で見張りを立てながら戦力の回復中です」
「だったら、大人しく回復に勤しみなさいっ!何わざわざ影分身飛ばしてるんですか!」

そう、今イルカの目の前にいるのはカカシ本人ではなく、彼の影分身だった。
カカシの部隊は、イルカの所属する後方支援部隊とはワケが違う。今も戦場の最前線に立って常に命の危険と隣り合わせの場所で任についているのだ、そんな危険な所に身を置きながら何故自分のところに影分身を飛ばすそんな危険極まりない事をするのか、イルカには理解できなかった。

「まぁ、確かにちょっと軽率な行為である自覚はあるんですけど…。
どうしてもイルカ先生の事が気になっちゃって…、スミマセン」

「ちょっとじゃないですよ、軽率過ぎます!」
「ハハハ…」

大して悪びれる風でもないカカシに、イルカは脱力した。

いつもこう。
どうしてなのか、一体どこから嗅ぎつけて来るのかなんてはイルカには分からない。
でも不思議とイルカに『何か』があった時は、かなりの確率でカカシは姿を現した。

それがカカシの優しさの一つであり、
また、それによって確かに救われている事実をイルカは自身で認めている。

だから、

「―――でも、顔が見れたのは嬉しいです…」

囁きとも取れる小さな小さな声で呟いた。
勿論ソレをカカシが聞き逃すわけも無く、ただニコリと笑ったのだった。

「影分身じゃ分からないですけど、お怪我とかはされてませんか…?」
「えぇ、おかげ様で。何とか此方がやや優勢なので」
「そうですか、それは良かった」

「―――イルカ先生」
「何ですか?」






「ナルト、出ちゃいましたね」
「……えぇ」

「イルカ先生、止められなかったんですね」
「はい、止められませんでした」






「そうだろうと思った」
「……どういう意味ですか?
そもそも何で俺がナルトの足止めの任に就いたこと知ってるんですか、アナタ」


「上忍の情報網を舐めてはいけません。それに、アイツの足止めならやっぱりイルカ先生が適任だと俺も思います。アナタの話なら、ナルトは絶対耳を傾ける」
「買い被り過ぎですよ、現に俺はナルトの足止めに失敗したんだから」

頭(かぶり)を振るイルカにカカシは小さく笑んだ。

「分かってないなぁ、イルカ先生。アナタが行ったことに意義があるんですよ」
「……?」

「アナタにとってナルトが特別なように、アイツにとってもイルカ先生は特別って事です。
―――ま、妬けるっちゃ妬けますけどコレばっかりはね、俺も認めざる得ないから」
「カカシさん…?」


カカシの言う意味がいまいち掴めず、
イルカは僅かに首をかしげた。


「アイツにとってアナタは『家族』なんです、母であり、父であり、兄であり…。
四代目とクシナさまがナルトの産みの親なら、イルカ先生アナタはナルトの育ての親だ。親が子を思い苦言を呈する事はよくある事でしょう、そして、その苦言が愛情からくるものであることを理解できないほどナルトはもう子供じゃない」

「………」

「だからね、イルカ先生。
やっぱりナルトと話をするのはアナタじゃなきゃ駄目だったんですよ。他の誰でもない『家族』であるアナタじゃなきゃ、ね」

「…カカシさん、」

唯一伺える右目を弓形にして微笑むカカシに、
イルカはこみ上げてくるものを抑える事が出来ずにいた。

「ありがとう、ございます…」

ツゥっと流れる一筋の涙。
ビーと対話した時には堪えることの出来たソレ。
しかし、今は我慢しようにも次から次へと溢れてきて、イルカ自身によっても止めることが出来ない。

「あ〜…イルカ先生、泣くのは反則ですヨ」
「スミマセ…っ!」

慌てて袖で拭い去ろうとするイルカの腕をカカシは素早く絡めとった。

「違う違う、そういう意味じゃなくって」
「カカシさ―――っ」

そのまま腕を引かれ
イルカはカカシの腕の中に落ちる。


「そんな可愛い顔したら、俺が我慢できなくなるデショ?」
「っ!?///」


耳元にかかる吐息と、
低く心地いい声に自然とイルカの頬は紅潮した。

「ちょっ、カカシさんっ!?」
「ホント、何で俺今この場に居ないのかね。残念すぎる…」

ぎゅうと抱きしめられて、
心底悔しそうにぼやくカカシの声に嬉しいやら恥ずかしいやらで、イルカはどうして良いか分からず、カカシにされるがままになっていた。




「ねぇ、イルカ先生」
「はい」




時間に換算すればソレほど長くも無いだろう時間。
それでも、影分身でも、確かに感じるその温もりは本物で、それはまるでとても長い時間を共有していたかのような錯覚さえ覚える。
ふいに抱き締められていた腕が解かれ、改めてイルカとカカシは互いに見つめる形になった。


「ナルトは大丈夫ですよ」

「……」

「だって、こうして遠い地ではあるけれどアイツを心配して、還りを待っているアナタがいる。
今年はバラバラなっちゃったけど、来年はみんなで一緒にお祝いしてやりましょう」

「え…?」





「―――ナルトの誕生日」





「カカシさん覚えて…」
「モチロン」




「―――アナタの事だから、絶対ナルトの事考えてるんだろうなーと思いました。
でも、知ってました?俺、相当のヤキモチ焼きなんです。ナルトのこと考えてるイルカ先生を独りになんて出来ませんからね、こうして馳せ参じたわけですよ。
何てったって『家族』のポジションはナルトに譲りますけど『夫婦』のポジションは譲る気無いですから」

「何ですかソレは」

悪戯っぽく笑うカカシにイルカは少しだけ困ったような顔をして、
そしてやはり―――笑った。


「そのままですよ、イルカ先生は俺の生涯の伴侶ですからv」


そう言ってカカシは素早く口布を下ろしたかと思うと、そのままイルカの頬に軽く口付けた。

首元に柔らかな髪が触り、イルカが少しだけくすぐったそうに首を竦めた。












「―――じゃあ、そろそろ戻りますね」
「はい、お気をつけて」

「あ、そうだ!」
「……?」




「ナルトもそうだけど、俺の還る場所もココですからお忘れなくv」




トンッと己の胸をさされ、イルカは小さく笑い頷いた。



その瞬間、



カカシの姿は煙とともに消えていた―――――
























忍界大戦が何月に始まったのかなんて知らない
けど、折角だからリアルタイムな時間軸で

ナルト出てきてないけどナル誕SSと言い張る
ナルトHappyBirthDay!!

20111010










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