ライバル宣言
「………」
何でこんなことになったんだか……
イルカは気付かれないように小さく息をついた。
事の始まりはいつだっただろうか?
眼前で繰り広げられる頭を抱えたくなるような遣り取りから目を背けたくて、イルカは過去に思いを馳せる。
現実逃避と言われようが知ったことじゃない。
だって、こんな現実なんて信じたく無いだろう。
元教え子とその現上司が、同性の自分を取り合って争っている状況なんて……
普段の無関心ッぷりは何処へいったのやら、眉間の皺だけでは飽き足らず額に青筋まで浮かびそうなサスケと、完全にそれを揶揄っているとしか思えないカカシのその姿に、
……この2人、俺が男だってこと分かってんのか?
どこか遠くに行ってしまいたい。
出来る筈が無いと分かっていながら、しかし半ば本気でイルカはそんなことを考えていた。
まさかこんなことになるとは……
-+-+-+-+-+-+- * -+-+-+-+-+-+-
「イルカ先生、こんばんわ」
「……カカシ先生?」
遡ること一ヶ月前。
受付の業務も終わって、今日は残業をするような仕事もない。あとは家に帰るだけ。
そして、アカデミーを出た時にその人に声をかけられた。
はたけカカシ。
教え子の担当上忍師。
色々と難しい問題を抱えた子ども達だから、その辺りを理解して欲しくて余計なお節介かも知れないと思いつつも当初、イルカはカカシの姿を見かければ声を掛けるようにしていた。しかし、それに対してカカシが乗り気な返事をしたことは数えるほども無かった。
やはりお節介だったのかもしれない、と思い返し、子ども達の様子は気になるもののイルカは自分の行動を自粛する意味も込めてカカシとの接触を極力減らすようにしていた。彼の姿を見るとどうしても子ども達のことが気になってしまうからだ。それなら、最初から会わない方がいい、そう思ってのことだった。
それに彼が子ども達の担当になって幾許、たまに一緒に一楽に行くナルトの様子から見てもカカシは十分子ども達といい関係を築けているようにも思えた。
元より意識しなければそうそう上忍と中忍では会話の機会などない。
カカシと会話らしい会話をしなくなって既に久しい。
アカデミーの入り口。誰かが木に背を預けて立っているのには気がついていたが、まさかそれがカカシだとは思わなかった。あまつ、声を掛けられるとは、そんなこと微塵にも予想していなかった。
しかし声を掛けられて無視する訳にもいかず、イルカはその驚きを表情の奥に潜め、小さく会釈する。
「こんばんわ、カカシ先生。どうしたんですか、こんな所で…?人待ちですか?」
「――ええ、まぁ。……そういうことになりますかね……」
どことなく歯切れの悪いカカシの様子に何となく引っ掛かりを覚えはしたものの、誰かと待ち合わせしているのならそれはそれ、イルカには関係ない。
「そうですか、早くお相手の方来るといいですね」
「あ、いや……」
早々に立ち去ろうとしたイルカの前でカカシが困った顔をして首の後ろを掻いた。
「………?」
「あのね、俺が待ってたのはあなたですよ。イルカ先生」
「え?」
言われた意味が分からなかった。
「おれ…いや、私ですか?」
「ええ、アナタです」
何故?
言われて瞬時に過ぎったのは疑問だった。
カカシとイルカの接点といえば教え子しかない。まさか、ナルト達に何かあったとでも言うのだろうか?
一瞬青くなるイルカだったが、はたと考え直す。もし万事があったとしたならばこんなところでのんびり待っていたりしない筈。そもそも、カカシがわざわざイルカを待ってまで有事を知らせるような義理は無い。
「私に何か用でも…?」
思い当たる節も無く、イルカは首を傾げた。
「用っていうかね…。その、ヒかないで欲しいんですけど」
「はぁ……」
一体何を言おうというのか、身構えようにもどうもカカシの態度がビミョウで分からない。
「ここ暫くイルカ先生、俺のこと避けてませんでしたか?
それまで毎日みたいに会ってたのに、めっきり減ったみたいで……」
……ああ、やっぱり気付かれてたか。
と、イルカは思う。出来るだけさり気なくを装っていたつもりだったのだが、それまで頻繁に声を掛けすぎていたせいだろう。
しかし、避けてませんでしたかと問われて、はい避けてました、と言える筈も無い。イルカはなんと答えてよいものか分からずただ黙っていた。
「最初はね、まあ、別に気にしてなかったつもりなんですよ。
でもね、何ていうか気になっちゃってね。何やっててもアナタの事が気になるんですよ」
「はぁ…」
「―――で、どうやら俺、アナタの事好きみたいなんですよね」
「はぁ…」
――――って、
「はいぃぃぃぃぃ〜〜〜〜ッッッ!?!?!?!?」
さらり、と言われた言葉からイルカの脳がその意味を汲み取って処理するまでに数秒。
ワンテンポ遅れて驚くイルカにカカシが困ったように苦笑した。
「ま、驚くのは無理ないですよね。俺だって驚いてるんです。
でも、俺の場合は自分の気持ち我慢するつもりはないんで…、これから覚悟してくださいね?」
覚悟って一体何の覚悟だよッ!?
と、ニッコリ笑うカカシに思わずツッコミを入れそうになった。
「我慢ばっかりして何もしないままあとで後悔するのはイヤなんだよ、俺の場合。お前と違ってさ、―――なぁ、サスケ?」
予想外のところで聞く羽目になった教え子の名に、イルカは言葉もなく慄いた。
カカシの視線の先、恐る恐る振り返ればそこにいたのは……
「サ、スケ…?」
いつの間にそこに立っていたのか。
その表情はいつものどこか冷めた視線ではなく面白くなさそうに眉間に皺を寄せている。
元々の感情の起伏は激しいのだが、どうもそれを内に押さえ込む節のあるサスケがこうも露骨に不快感を露わにすることも珍しい。脳裏の片隅でそんなことを思いながら、しかし、出来ることならそういった表情ではなく笑った顔が見たいものだ、とイルカは思った。
「どうしたんだ、お前。こんなところで…」
一体どこから聞いていたのか。
出来るだけ、平静を装ってサスケに話し掛ける。
しかし、サスケはイルカの問い掛けには何も答えずツカツカと歩み寄ってきた。
「サスケ…?」
その尋常でない雰囲気にイルカは眉を寄せた。
「――――イルカ先生、」
「………」
ぐっ、と腕を掴まれたのだが、
そのサスケが自分を見る瞳が真剣みを帯びているから、イルカは敢えて何も言わずにされるがままになっていた。
こういう時、下手に何か言わない方が子どもの為であることをイルカはこれまでの経験上知っている。こちらが何かを先に言ってしまうと、子どもが自分の意見を言う前に萎縮してしまうことがあるのだ。サスケが意思の弱い子でないことぐらいイルカも十二分に理解していたが、ここはサスケから口火を切るべきだと、そう直感的に思った。
そして、サスケの言葉を待つ。
「俺、イルカ先生のことが好きだ」
――――――――― へ?
「―――アンタになんか、負けねぇからな」
「なぁに言ってんだかね。今までずぅーっと黙ってたくせに、そんな告白する勇気もない奴に俺が負けるわけないデショ?」
カカシに続きサスケまで。
いや、サスケの場合教師として身構えていた分、今度こそ頭が真っ白になった。
今この教え子は何と言った?
自分のことが好き、と言ったのか?
カカシを睨み上げ怒気を明らかにするサスケとそんな視線はどこ吹く風、飄々としているカカシの遣り取りなど、既にイルカの耳には入っていない。
その日、
イルカは自分が2人とどうやって別れて自宅まで辿り着いたのか全く覚えていなかった―――
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アレ以来、何かことある毎にサスケとカカシはイルカに纏わりつくようになっていた。
纏わりつくと言っても、ナルトのそれとは少しばかり勝手が違う。
いや、カカシ先生のはナルトと殆ど変わらないかもしれないな…
と、イルカは考えを改める。
何かあれば過剰なスキンシップを図ろうとするその姿は金髪の子どもを連想させた。しかし、子どものやるソレとは違い自分よりも図体のデカイ立派な成人男子にそんなことをされても正直手に余るどころのレヴェルではない。
それを牽制するのがサスケ、という構図が今はすっかり出来上がってしまっている。
これもイルカを悩ませる要因の一つだった。
カカシとサスケは仮にも共に任務をこなすチームである、幾ら下忍の請け負う任務だからといってこんなに諍いばかりで大丈夫なのか。余計なお世話かもしれないが本気で不安になる。
「ったく、邪魔すんじゃないよ。俺はイルカ先生と大人同士で大事な話があるんだ〜よ」
「フン、何が大事な話だ。アンタなんかただ単にイルカ先生の邪魔してるだけだろうが」
「上司に向かって生意気だねぇ〜、お前」
「非常識なアンタに比べればずっとマシだ」
………はぁぁ〜〜
「―――2人とも、」
イルカは一口茶を啜って、湯飲みを置いた。
「いい加減にしなさい。じゃないと2人揃ってここから叩き出すからな。
喋るな、とは言わないけどサスケもカカシ先生も何でそんな喧嘩腰にならにゃならんのですか。メシは楽しく食べるもの、とウチでは決まってるんです。これ以上不毛な言い合いを続けるなら、俺はナルトと一楽にでも行きますよ」
「イルカ先生……」
「……スミマセン」
一様に反省の色を見せる2人にこれ以上怒るのも不毛な気がして、イルカは小さく息をついた。
まるで雛鳥が親鳥を追うかのように自分に付いて回る、雛鳥というには大きすぎる銀髪と黒髪のソレ。しかし、そんな状況にすっかり慣れつつある自分が一番信じられない。
今日だって別に2人を招くつもりなんかなかったのに。強引に付いてくるカカシとそれを牽制しようとするサスケ。気がつけば3人してイルカ宅の前に辿り着いてしまったのだから、仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが……
「………」
「……何だよ?」
「べっつにぃ〜」
「………」
相変わらず互いに牽制してるとしか思えない、ギスギスした空間。
ああ、もう……
明日はナルトと2人で一楽へ行こう、と強く心に決めたイルカだった……
イルカ先生の苦労話に成り下がった気がする;;
どこがカカシvsサスケなんだろうか…?
一応頑張ったので上げますが
短編SSが増えてきたら一番最初に
削除対象になりそうです…トホホ
20041127