事実は噂より奇なり









忍者登録番号011450
うみのイルカ 5月26日生まれ 25才 ふたご座 O型
中忍昇格年齢16歳 正規部隊での任務を多数こなし、現在はアカデミー教師と受付を兼任。
幼年期の九尾事件により両親とは死別。以降、三代目火影を保護者代わりに慕うものの共に暮らすことはせず両親と過ごした平屋に独りで生活。現在は職場との距離も考え、アカデミー教師専用独身寮にて生活中。家はそのまま手元に置いてあるらしい。2週に一回のペースで掃除に行っているらしい、と言うのがもっぱらの噂。
人柄はおおらかで前向き。仕事に取り組む姿勢は真面目そのもの。やや熱血タイプでお人好しの感は否めないが、それも周囲から好印象をうむ要素になっているようだ。

そして、そこからイメージされる私生活もやはり……






「……何やってんですか、アンタ……」

カカシは目の前に広がる現実に思わず眉を潜めた。

「何、って…。晩飯食ってますけど、何か?
―――っていうか、アンタこそイイ加減勝手に人ン家に不法侵入するの止めてくださいよ」
「別に不法侵入じゃないデショ。俺、ちゃんと呼び鈴鳴らしたじゃないですか」
「呼び鈴鳴らして返事がないのに家主の許可なく勝手に上がってくるのは立派に不法侵入だと思うんですけどね」
「だったら、もう少し巧く気配なり消す事ですよ。アンタのバレバレ、つぅか本当に隠す気あったのかも怪しいもんだね。大体どこに家の電気付いてるのに留守だと思う奴がいるってのよ。
―――ま、そんな不法侵入云々はどうでも良いんですよ、今は」
「どうでも良くないだろ」

「そんなことより、」

ボソリ、と呟いたイルカの発言はさっぱり無視してカカシはイルカの手元を指差した。

「何ですか、それは……」

カカシの示した先、そこには小さな片手鍋が一つ。

「見て分かりませんか、ラーメンです」
「ええ、ラーメンですね。確かに何処からどう見たって間違いないですよ。
ついでに言うならイルカ先生御用達の、週の半分以上はそれで夕食賄えちゃうほど大大大大大好物なインスタントラーメンですね」

「……それは嫌味ですか…?」
「いいえ。俺はただ事実を在りのままに言葉にしただけでーす」
「………」

図星であるが故に反論出来ずに苦い顔をするイルカを余所目に、カカシは何事もなかったかのようにベストを脱ぎ額当ても口布も取り払ってしまった。


カカシがイルカ宅に足繁く通うようになって幾許、未だ一度もカカシはイルカが自宅でまともな食事をしているところを見たことがない。
イルカとの初顔合わせは初めて自分が上忍師として認めるだけの資質を持った子ども達に出会った時のこと。彼らのアカデミー担任だったイルカに下忍認定の報告をしに行きたいと言い募った子ども達に付いて行ったのが切っ掛けだった。別に何かしら感慨があったわけでもなく、第一印象は『ただの中忍先生』。良くも悪くも平凡で、強いて言うならその笑った顔が小気味いい程潔く好感は持てた。
カカシも後に知る事となったことだが、イルカはその腹に九尾を封印した忌み子――うずまきナルトを随分と可愛がっていたらしい。そしてまた、ナルトもイルカを実の家族のように慕っているのが見て取れた。里の民から忌み嫌われながら、その瞳は常に前を見据え擦れることなく良くも悪くも真っ直ぐに育ったのはイルカの影響が大きいかったに違いない。

最初に興味を持ち始めた切っ掛けはその辺に起因するのだろう、とカカシは思う。

報告書の受け渡しの時、
偶然アカデミーや里内で遭遇した時、

必ずイルカの口から紡がれる「ナルト」の名前。
何故、そんなに忌み子を気にかけるのか。聞けば、イルカも九尾に両親を殺され天涯孤独の身というではないか。九尾の子を守った風変わりな男がいるということは前に風の噂に聞いていたがそれがイルカだと知った時は正直驚いた。しかし、ナルトを気にかけるイルカの姿を見てなるほど、と納得もした。

イルカの背景の多くを知るようになって、
カカシのなかでうみのイルカという存在はいつのまにか『ただの中忍先生』から『風変わりな面白い男』に変わっていた。

知りたい。
もっと、イルカについて。

そう思ってからのカカシの行動は早かった。
元々、物事に関する興味関心は薄いのだが興味を持ったものに対しては恐ろしいほどの行動力を持つ男。
上忍の情報網を駆使し、かつ、生徒をネタに飲みに誘うことも幾度と挙げればきりがない。端から見ても「階級差を越えた友人」程度には認識されるようにはなっていたはずだ。
そうして何度となく飲みに行くうちに気が付いたのは彼の口から「ナルト」の名前が挙がることにあまり良い印象を抱いていない自分。最初こそ、何故、と疑問が湧いたがその感情の正体に気が付くまで幸か不幸かそれほど時間は掛からなかった。

そしてやはり気が付いてしまったが最後、カカシの行動は迅速だった。

行動を起こさずして諦めるなど、自分のポリシーに反する。
カカシは足繁くイルカ宅に通うようになっていた。そして、目にしたのは……



アカデミーにいる時、いわゆる表向きの彼とは違う本来の彼の姿。




「……何となく、ナルトの食生活が誰の影響なのか分かる気がしますね。
アンタがこんなんじゃ、ナルトなんてラーメンに自分で野菜を入れるなんて発想すら浮かばないだろうな……」

鍋の中にはまさにインスタントラーメンがそのまま。
何かしらの野菜、せめて生でも食べられるもやし位入れてもいいのではないかと思う。これではちゃんと丼に移して食べている分、ナルトの方がまだマシだ。

「別に構わないデショ、俺が何を食おうと。
言っときますけど、俺だってナルトにはこんなメシ食わせたことないですよ。アイツが野菜を食わないのはアイツが単に野菜嫌いだからです、――まあ、ナルトの場合はまだまだ成長過程の途中ですからちゃんと野菜も食って欲しいところではありますけど」
「そうですね、ナルトとメシ食う時は一楽のラーメンですから。アンタの料理なんて食わせられないデショ。イルカ先生、料理苦手だもんね〜」
「……ホットケ」

憮然と呟くイルカにカカシは苦笑した。
そう、案外知られていない事実だがイルカは家事の一切が得意ではない。
小さな頃から独りで生きていたという事実、そして、アカデミーでの彼の姿から私生活もそつなくこなすイメージが付き纏い気味だが実際は全くその逆。
子どもの頃は何だかんだで周囲が気に掛けてくれたおかげで食うに困ることはあまりなかったらしい。おかげで得意な料理はお湯を入れて3分で出来るカップラーメンかお湯を沸かして出来上がりのインスタントラーメン、あとはコンビニや外食で済ませるという有り得ない生活を送っていた。
洗濯物も溜まらなければやらないし、掃除だって必要に迫られなければやらない事の方が多いらしい。

「俺が戻ってくるの待ってられなかったんですか?言いましたよね、今日の夜には戻るって」
「……今日は日がな実地訓練だったんです」

なるほど。
イルカの腹具合がカカシの帰還まで保たなかったらしい。
カカシがイルカ宅に足繁く通うようになって、決まった役割が一つだけある。
それが、夕食当番だった。頼まれたわけではないが、正直イルカの食生活に合わせていたのではカカシの方が参ってしまう。だからと言って帰る気にもなれず、カカシはいつからか勝手に材料を買い込んで勝手に夕食を作るようになっていた。

「じゃあ、それだけじゃ足りないんじゃないの?」
「………別に」

見透かされたような物言いにイルカは面白くなさそうに口を尖らせた。
基本的にイルカはよく食べる。本人曰く、毎日毎日元気な子ども達を相手にするためには此方もそれ相応の体力をつけておかなければやってられない、ということだった。

「俺、任務明けなんですけどね…」
「誰も作ってくれなんて言ってないです」
「拗ねないで下さいよ」
「拗ねてなんかない」

ぷい、とそっぽを向くイルカにカカシは眉尻を下げた。
本当に、素直でないというか何と言うか…。
初めてこの実情を目にした時は思わず己の目を疑った。カカシもイルカに対していわゆる世間と同じようなイメージを抱いていたからだ。
しかしその実際は全然違っていてあまりに社会的な面と私生活の面にギャップがありすぎる。でも、今はこうしてそのプライヴェートな部分も曝け出してくれているその事実が嬉しかったりする。まあ、イルカに言わせれば自宅に帰ってまでふざけた上司の相手などしてられるか、と開き直った部分の方が多かったりもするのだが。

「まあ、少し待ってて下さいよ。確か冷蔵庫にこの間買っておいた焼きソバが、どうせイルカ先生の事だから手付かずで残ってるんでしょ?すぐ作っちゃうから」
「……何であなたはそうなんですか……?」

ニコリと笑って勝手知ったるだ居所へ向かうカカシの背後、イルカがボソリと呟いた。

「ん…?」
「俺の晩飯なんか用意してどうするんですか。アンタは色々してくれるけど俺はアンタに何かしてやれる事なんて無いですよ」
「いやだなぁ〜、別に見返りなんか求めてませんよ。今のところ…
――俺はね、あなたのことが好きなんです。言いましたよね。好きな人に尽くしたいと思うのはフツーの感情デショ?」

「……俺はオトコ相手に起った事も無いし、掘られる気も無い」

「イルカ先生って極端ってよく言われませんか?別に、今すぐそーゆー関係になろうって訳じゃないですって。安心して下さい。
ま、ちなみに俺もオトコに掘られる気は無いですけどね」

「今すぐも何も、永遠にそういう関係になるつもりはありません」

「冷たいなぁ、イルカ先生。俺、こんなにあなたのこと愛しちゃってるのに……」
「知りませんよ」



下らない、と会話を打ち切ってしまったイルカに肩を竦めつつもカカシは任務前に買い置きしておいた焼きソバを冷蔵庫から取り出した。具材には、手抜きといえなくも無いが玉葱ともやし。肉が無いのは寂しいがまあ仕方あるまい。
包丁で玉葱を切りながらカカシは独り笑みを浮かべた。

何だかんだで自分の存在を許容する人。
決してマメとは言えないガサツな人だけど、実は口もとっても悪かったりするんだけど、不器用で人一倍寂しがりやで……










「イルカ先生」
「………?」


「大好きですよvv」

「黙れ、変態」

























漢らしい(?)イルカ先生が
書きたかっただけ

20041216










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