意識という深い海





いつの頃からか、気が付けば視界に入っているその色に、
本格的に意識を奪われるようになったのはついぞ最近のこと。


―――何で?


胸の内に小さく芽吹いた疑問に、答える術など持ち合わせている筈もなく
ただただ首を傾げて遣り過ごすだけの日々。

最初はその存在を何となく視認しているだけのはずだった。
それでなくても人目を引く形をした噂の絶えない人だから、最初は、こう言っては失礼かもしれないが、それこそ単なる興味の対象だったのだろうと思う。

他里のビンゴブックにも名を馳せる有名な忍。
里随一と称された彼に付随する数々の華々しい噂は一介の中忍である自分とは雲泥の差と言っても過言ではない。今までの自分の生き方を否定する気も、卑下する気もないが、それでもやはり比べてしまうのは男としての羨望とでも言おうか…。







そうして、今日も―――






「――おい、はたけ上忍だよ」
「あ、あぁ…」

何処に居たってその艶やかな銀髪を見つけられない日はない。
猫背でひょこひょこと歩く姿は自分よりも長身であるはずなのにどこか滑稽で、表情なんてのは口布に覆われていて殆ど読み取れないはずなのにどうしてだろう、なんとなく分かる。

今日は少し、疲れてる…?


「これ、お願いします」


差し出された報告書。


「あ、はい。お疲れ様です」



確証は持てないけれど、
何となく…



「ねぇ、イルカ先生?」

この人は俺のことをいつからか『イルカ先生』と呼ぶようになっていた。
最初は驚きもしたが原因は手を離れて下忍となった子ども達。理由が判れば如何ということも無い。気が付けば、すっかりそれが定着していた。少しだけ距離が近付いた気がして、照れくさい感じもあったが不思議と嬉しい気持ちになった。
名前を覚えてもらえた。彼にとって『他人』ではなく『うみのイルカ』として、一個人として認識してもらえたのが嬉しかった。

「はい」

名前を呼ばれて、自然と視線は彼へと向かう。


「俺ねぇ、『叶わない恋』とかってするつもりないんですよね」





「…………はぃ?」





言われた意味が分からなかった。





「だから、早くアンタも気付いて下さいよ。ソコに眠ってる気持ちってヤツに。
じゃないと、俺ばっかりが恋しちゃってるみたいじゃないですか」

「……はぁ」


こい…って、何を言ってるんだ?




来い?濃い?故意?

―――――――鯉…?




分かるけど、分からない。
思わず眉を潜めてしまっていたらしい。

「イルカ先生、寄ってますよ。眉間に皺」

指摘されてしまった。




「あの、カカシ先生……?」







「―――ま、そういうことなんで。ヨロシクお願いします」










何事も無かったかのように煙に消えたカカシ先生の姿を俺はただただ黙って見送ることしか出来なかった。


………一体、何だったんだ?











鈍イルカ

20041203 UP






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