わたがし





ふわふわふわふわ

ふわふわふわふわ



特別な日にしか食べられないソレがそこには沢山あるんだ。
鳥になれたらいいのに。
そうすればお腹いっぱい食べることが出来るのに。





「……イルカ先生?」

「あ、カカシ先生。こんにちわ」

見知った顔に、声を掛ければいつもの笑顔でニコリと微笑む。
その笑顔に惹かれるようになったのはいつの頃からだっただろうか。
カカシはぼんやり考えながら、イルカの横に並ぶように佇んだ。

「こんな所で何をなさっているんですか…?」

ぼんやりと空なんか眺めて……

覗き込めば、イルカは「見られてましたか」と小さく苦笑した。

「雲を見ていたんです」
「雲、ですか…?」

カカシが首を傾げると、イルカはふと視線を空へと移した。カカシもそれにつられて自然と空を見上げる。
雲ひとつない空、という事もない。
むしろこの辺りでは珍しく、少し規模の大きな雲が何個か点在していた。
日差しが頻繁に見え隠れしている。

「子ども達がね、お菓子みたいだ、って言うんですよ」
「お菓子?」

「ええ。わたあめみたいだ、って」

イルカはそんな子どもの発想が可愛くて仕方ないらしい。
口元が綻んでいた。

「わたあめ、ねぇ〜…。
ま、確かに似てないこともないですね。今日みたいな雲は…」

雲の本当の正体は単なる水蒸気の塊でしかない。
実際に雲の中に入ってしまえば、それは形として実感することは出来ない。
ただ、霧の中に迷い込んだような、そんな錯覚に陥るだけ。

イルカもそれは重々に承知している。
しかし、

「俺も、昔は雲はわたあめなんじゃないかと思ってたんですよ」
「え、そうなんですか…?」
「そうなんです」

子ども達の発想は昔の自分のダブって見えて、
気恥ずかしいようなでも、どこか嬉しいようなそんな複雑な気持ちが芽生えた。

「鳥になれたらいいのに、って一時期本気で考えました。
あんなに大きな綿菓子を空を自由に飛べる鳥はいつでも食べれるんだ。って思ってたんですよ。そして、すごく羨ましかった」

「へぇ〜…」

「子どもの頃は自分の好きな食べ物を思う存分食べるって中々出来ないじゃないですか。お菓子だったら尚更…。
だから、空のわたがしをいつでも食べれる鳥が本当に羨ましかったんですよ」

小さい頃、空を見上げては幾度となく思いを馳せた。
そんなこそばゆいくて懐かしい思い出にイルカは独り苦笑する。

「イルカ先生、わたがしお好きだったんですか…?」

「子どもの頃の話ですけどね。
…好きでしたよ。まあ、今でも甘いお菓子は嫌いじゃないですけど…。
食べなくなりましたね、最近はめっきり……」

もう、わたがしの味も忘れてしまいました。

ハハハ、と笑うイルカにカカシは少しの間黙り込んだかと思うと
突然――

「食べにいきましょうか?」
「は?」

「わたがし」

「へ…?」

「お祭りデショ、今日。だから、子ども達もそんな話してたんじゃないんですか…?」
「ああ、まあそうなんだと思いますけど…」

「ホントはね、ナルト達がお祭りって騒いでるの見ましてね。
俺、祭りとかって行ったことないんですよ。でも、独りで行くのって何じゃないですか。だからイルカ先生を誘おうと思ってたんです」

一緒に行ってくれませんか…?

窺うように覗き込むカカシのその仕種がどこか子どもじみていてイルカは小さく微笑んだ。

「そうですね、久し振りに祭りに行くのも良いかもしれません。
行きましょうか、お祭り」





ふわふわふわふわ


小さい頃に食べたわたがしはある期を境に全く食べなくなった。
買ってくれる人がいなくなったから。
一緒に食べてくれる人がいなくなったから。

もう味も覚えていない。

ただ覚えているのは楽しかった思い出と、甘かったなという思いだけ。


ふわふわふわふわ





「イルカ先生…
コレ、ものすごく甘いですよ…?」

「そりゃ、わた『あめ』ですからね〜…」






まだ半分以上残るわたあめを目にしてげんなりする甘いものが然程得意でない上忍を見て、イルカはクスクスと笑った――――











わたあめの味を覚えてないのは私
甘いってことしか覚えてない;;

20040827 UP






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