カルネアデスの板





「……は?」

いきなり何を言い出すのか。
訝しく思って目の前の人を見れば、どうやら表情に出ていたらしい。
カカシが「だから、例えばの話ですって…」と苦笑していた。


例えば、

オレとあなたの2人で任務に出たとしましょう。
どんな経緯でも構わないんですけど。どちらかしか生きられない状況になったとして、あなたならどうします…?


そう、問われた。

いきなりそんな突拍子も無いことを言われた戸惑いと同時に、
何を思ってそんなことを言い出したのか、イルカは相変わらず理解の範疇に及ばない上忍のその姿に小さく息をついた。

きっと、彼のこと。
「なにを、バカなことを…」と言ってしまえば、この話はそこで終焉を迎えるだろう。

しかし、何となく、イルカはそうしてはいけないような気がした。

「それは、どう足掻いてもどちらか独りしか生きられない状況なんですか?」
「ええ、そうですねぇ〜…」

気の削がれるような、力の抜ける声。

本当に一体何を考えているのやら……

イルカは今度こそ溜息をついた。

カカシは常にこのスタイルを崩さない。
例え、自分が弱っていてもそれを他人に悟らせることをしない。
心中穏やかでないくせに、どうしてそうやって隠すのか。
今だって自分の回答次第ではその何も窺えない表情の奥で独りで傷つくのだろう。

もっと曝け出してくれて構わないのに……


「カカシさん」
「はい」

「その質問は不毛です」
「え…?」

「だってあなた、俺が残って死ぬことをヨシとしないでしょ?
で、俺もあなたを残して生き残るなんてことは絶対にしたくないんですよね」
「……イルカ先生?」



「俺の選択は、『カカシさんが生き残るか』『俺が生き残るか』の二択じゃなくて、『あなたと共に生きるか』『あなたと共に死ぬか』そのどちらかでしかないです。
―――だから、その質問は無駄ですね。質問に対して本来意図すべき回答を俺は生憎と持ち合わせていません」

どちらかしか生き残れない?
そんな状況、あってたまるか。冗談じゃない。

「カカシさんは違うんですか…?」

ここでもしカカシが「あなたは絶対に生きてください」とでも言ったら、イルカはカカシを殴ってやろうと思っていた。カカシは上忍でイルカからすれば上司に当たるが、プライヴェートまで階級を意識してやる必要もないし、そんなことを言った瞬間、カカシは殴られるだけのことはしている。

大切な人を失ってまで生きる辛さはイルカもカカシも充分に痛感していることだから。



「……違いません。俺も、一緒です」

――良かった。



明らかにそう物語るカカシの表情に、イルカは言葉を失った。
ひどく安堵した表情に、イルカは




「カカシさん…」
「?」



少しだけ胸が痛んだ。






不確かな未来、どちらかが――どちらかとういうとカカシの方が確立としては高いが、命を落とす危険は常に付きまとう。

それでも、こんなちっぽけな言葉でも安寧を得ることが出来るのなら……







「ずっと、ずっと、一緒にいましょうね……」

「―――はい」








そのカカシの笑顔に、イルカは何故か少しだけ泣きたい気持ちになった……











微妙に暗…;;

20040822 UP






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