パンドラの箱





箱を開けてはいけないよ。
開けたが最後、もう後戻りが出来なくなるよ。

箱を見てはいけないよ。
見たが最後、どうしても開けたくなってしまうよ。

開けては駄目。
開けては駄目。

だって、開けてしまったら―――









「イルカ先生?」
「――え?あっ、カカシ先生!」

「…どうしたんですか、ボーっとなさってましたけど?」
「え!?あっ、いえ、何でもないです!」

「そうですか…?」


トクトクと脈打つ鼓動。
緊張の所為か、顔が紅潮しているのが分かる。

最近、自分はこの銀髪の上忍の前に出ると柄にアガってしまう。

里のエリートと称される「写輪眼のカカシ」こと、はたけカカシ。縁あって、知り合いになって、気がつけば随分と親しい間柄になっていた。階級差を気にさせない気さくさがとても親しみやすくて、元々年齢が近いこともあってか共通の話題も実は結構あったりする。


しかし、



それはある飲み会で席を外したこと。




『―――イルカ先生のこと?』


聞こえたのは馴染みのカカシの声だった。
どうやら上忍達が集まって宴会を開いている所に自分たちもブッキングしたらしい。他にもチラホラ受付で聞いたことのある声が響く。
今、話題に上がっているのは自分のことらしい。

立ち聞きなんて趣味の悪いことを…

なんてのは、分かっていてもどうしても耳を欹てずにはいられないのは人間の性。


『うん、まぁそれなりに仲良いよ。え、友達?…そう思ってもらえてるかなぁ。ま、そう思ってもらえてたら嬉しいけど。ほら、俺こんなんじゃない?殆どの場合、遠巻きに避けてくからねぇ…。――あ?ウルサイよ、髭。
とにかく、イルカ先生は…まぁ、ナルトのことが気になってたのもあるとは思うけどさ、気持ちいいくらい俺のこと真っ直ぐに見て笑ったわけよ。そして、何て言ったと思う?「どうかこいつらのことよろしくお願いします、カカシ先生」って言ったんだよ。
いや、勿論「はじめまして」とか最初にあったけどさ。っていうか、茶々入れんなよ。
同世代の人間から先生、なんて言われたの初めてだったからさ〜…。何て言うかビックリしたていうかさ、改めて、「あ、俺、先生になったんだ」とか思っちゃったりして…。俺を見てくれてるっての?嬉しかったわーけ、で、出来ればもっと話とかしたいなとか思ったのよ。
だから、珍しいとか言うなってんだろ。ウルサイって、ほっといてよ』


少しばかり饒舌なカカシの様子に酒を随分と召していることは容易に想像出来た。そう言えば、確かに自分は初対面にも関わらずいきなりカカシを「先生」呼びしていた気がする。その前にナルトから色々と説明されていたからその影響だろう。自然と、「カカシ先生」が口を滑り出し、気に止めた事もなかった。
でも、カカシが好意的な印象を抱いてくれているのは嬉しかった。別に、意図したわけではないけれど、自分もカカシと親しい仲になれればいいと思っていたのだから。

いい加減、ここから立ち去らなければ。カカシの意図しない所で彼の本心を聞いてしまった後ろめたさもあってゆっくりとその場を立ち去ろうとした、
その時―――



『いいんだってば。俺、イルカ先生のこと好きなんだから!』



―――え?



あの時カカシはきっと友人として好き、と言ってくれていたに違いない。
なのに、









開けてはいけないよ。
その箱を。

その箱を開けてしまったら……








「……無理しないで下さいね、イルカ先生」
「はい。スミマセン、ご心配お掛けしてしまって……」

「なぁに言ってるんですか、俺とイルカ先生の仲デショ?――またその内一緒に飲みに行きましょうね」
「ええ、喜んで」


ニコリと笑って、立ち去る後姿を見つめながら、
徐々に落ち着いていく鼓動にほっとする。

一緒に飲むのは楽しい。
カカシと一緒にいると幸せ。

出来るなら、ずっと――――――









でも、
これを認めてしまってはいけない。
これは違う。

この箱は、開けてはいけない。






だって、この箱の中には…









好き』という気持ちが眠ってる……











カカ←イル

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