何事も言葉で暴く必要はない





……はぁ、

イルカと些細な事で喧嘩した。
いや、こんなの喧嘩なんて言わない。だって、あの人は俺のことなんて気付いてなかったんだから。自分が一方的に怒って、一方的に拗ねているだけ。

何でこんなになっちゃうかなぁ……
久し振りに顔が見れたのに、本当ならもっとイチャイチャ出来たはずなのに…


あまりの器量の狭さに自分自身でウンザリする。




遡ること半日前。

カカシは漸く長期任務から解放され気持ちを切り替えアカデミーに向かっていた。
もしかしたら帰るのは夜中になるかもしれないと思っていたのだが、思いの他順調に事は進み夕刻、日の沈む前に里入りを果たす事が出来た。
この時間なら、まだアカデミーに居るはず。
愛しい人に早く会いたくて、自然と向かうスピードは速くなる。こんな風に誰か独りに思いれる日が来るなんて想像してもいなかった。でも、それがとても楽しい。
あの人が笑顔で迎えてくれる、それだけで…

―――なのに、


「よう、イルカ!久し振りだなっ!」
「―――え?あ、うわッ!どーしたんだよ、久し振りじゃないか!?」


……その人は、ダレ?
貴方は誰に笑いかけてるの。


「本日付で里外長期任務終了〜ってな」
「そうかー、お疲れさん。もう二年半位にはなるのかな、最後に会ったのはお前が任務に出る直前だったし…」


ねぇ、その人は貴方の何なんですか?


「どーよ、イルカ。今晩あたり?」
「ん?あー、う〜ん…」

くい、と杯を傾ける仕草にイルカが困ったように首後ろを掻く。

何で断ってくれないの?
俺、帰ってきたんですよ?

即答しないイルカにフツフツと湧き上がる不条理な感情。
自分でも分かってる。分かってはいるのだがどうしても止められない。嫉妬に独占欲。子どもじゃないんだから、どこかでそう囁く冷静な自分がいるにも関わらず、それでも嫌なものは仕方ない。イルカが誰かと、自分の知らない誰かと楽しそうに会話をしているそれだけで身が切られそうになる。とても、不安になる。

そんなわけあるはずないだろう、そう、思ってるのに…




結局カカシはイルカに帰還の報告はせず、そのままアカデミーを引き返してきた。
きっと今ごろカカシの帰還など知らずイルカはあの親しげな男と酌を交わしているに違いない。そう思うと、少しだけ悲しくなった。
分かっている。イルカにだって友はいる、いや、イルカだからこそ里の内外問わず友は多いだろう。そして彼のこと、その友を蔑ろにするとは思えない。


「なぁに、やってんのかな。俺…」


ポツリ、と呟いて
もう寝てしまおう、そして明日改めてイルカに会いに行こう。
今日の事はなかったことにして、いつものように……
そうしてカカシが重たい腰を漸く上げた時だった


ピンポーン…


滅多に鳴らない呼び鈴が鳴ったのは。

……誰だ?

こんな夜更け過ぎに自分の自宅を訪れる輩などカカシは知らない。そもそも、この自宅を知る者が現在この里に何人いるだろうか。別に隠しているつもりは更々無いのだが、これといって招き入れる事をしないカカシの家を知る者は殆ど皆無といって等しかった。

眉を潜めながら、玄関へと向かう。
その瞬間―――






「あ〜、カカシさん帰ってきてたぁ〜〜!!」

「イ、イルカ先生ッ!?」




玄関先、ヘラリと笑うその顔に正直驚いた。
確かにイルカはカカシの自宅を知っている数少ない者の内の一人だ。だからといって、まさかこんな時間に訪ねてくるとは思わなかった。しかも、人に肩を貸してもらいながら…。

「な〜、だから言っただろぉ〜?ココが俺の還るトコロなんだよー。
―――ね〜、カカシさぁ〜んvv」
「ぅえ…ッ!?」
「――あ。ちょ、おい、イルカッッ!?」

隣の男の肩から手を外したかと思えば、いきなり抱きついてきたイルカにカカシはどう対処していいかわからず、そのまま受け止めた。イルカを連れてきた男もいきなりのイルカの奇行に反応が遅れ制止の声だけが空しく響く。

「エヘヘ…、カカシさ〜んvv」

2人の驚きを余所にイルカは一人満足そうだ。

普段のイルカからは考えられないその行動パターン。くん、と鼻を掠めた匂いにカカシは小さく納得した。なるほど、イルカは少し酒を召し過ぎたらしい。
にしても、イルカとて酒豪とまではいかないがだいぶ飲めるクチの筈。結構な酒好きだと知ったのはもう随分と前の事だったが、イルカがここまで酔っ払った姿をカカシは今だかつて見たことは無かった。

「あのさ…この人、一体如何しちゃったわけ?」
「はぁ、実は…」


そう言って何ともバツの悪そうにその男は話し始めた。


何でも長期任務に赴いていた仲間が久し振りに里に帰ってきたということで――多分、夕刻見かけた男だろう、とカカシは算段した――再会も兼ねて飲み会ということになったらしい。どうにも乗り切れていないイルカに尋ねれば「気になること」があるという。どうせ、仕事のことだろうと思って半ば強引に連れて行ったのだが、ことある毎に抜けようとするのであの手この手で酒を進め続けた結果、この有様。

「さすがにこれはマズイと思って…、一人じゃ危ないだろうし俺が付き添うことになったんですけど。イルカのヤツ、自分の帰るところはコッチだって言ってきかないんですよ。……スミマセン、まさかはたけ上忍のお宅だとは思いませんで……」
「あー、やー…いいんだけどね、別に」

「おかえんなさ〜い、カカーシさ〜んvv」

「………」
「………」

個人的にこの状況はとても嬉しい。普段少しでも抱き着こうとすればそれこそ遠慮ナシに裏拳が飛んでくるのに、今はイルカの方からカカシに抱きついてきている。夢のような状況だった。しかし、イルカが後々正気を取り戻した時のことを考えると、少しだけカカシは頭が痛くなった。
かといって、このまま放っておく事など出来る筈も無く……

「まあ、今日はこの人はウチに泊まらせるよ」
「しかしッ…」
「だって、この人の家ここからじゃどう考えても遠いデショ。アンタだって明日、仕事なんじゃないの」
「そうですけど、でも…」
「あー、俺の事なら気にしなくて良いよ。イルカ先生とだってまあ別に知り合いじゃないって訳じゃないし。起きたらこの人にはちゃんと事情話すから」
「……いいんですか、本当に?」
「ああ。アンタもわざわざこんな所までご苦労さん」
「い、いえ!――それじゃあ、イルカのことよろしくお願いします!」

頭を下げるその男を見送って、
一体何がそんなに嬉しいのかイルカスマイル叩き売り状態のイルカを何とか居間へと連れて行く。

「ほら、イルカ先生。お水ですよ、大丈夫ですか?」
「大丈夫でぇ〜す!」

……どこが大丈夫なんですか、イルカ先生……
思わずガックリと肩を落とした。

「イルカ先生、何がそんなに嬉しいんですか…?」

楽しかったですか、久し振りに会う友人との飲み会は…?
俺と会うよりもずっと…

訊きたくても訊けない言葉が咽喉元まで出かけたのを辛うじて飲み込む。


「嬉しい?俺、嬉しそうに見えますかねぇ〜、ヘヘ///
そりゃ嬉しいですよ〜、
―――だって、今日はカカシ先生が帰って来る日じゃないですか〜」

「え…?」



「本当はね、カカシさんが帰ってくるの待ってるつもりだったんですよ〜
なのにあいつ等ってば、俺のこと無理やり連れて行くんです。酷いデショ〜。俺、今日はどうしても気になることがあるからって、言ったのに〜…」

「………」



「でも、今日中にカカシさんの無事な姿が見れて良かったです〜。
俺ずぅぅ〜〜〜っと待ってたんですから〜〜」



ヘラリ、とその表情を崩して笑う笑顔にカカシは自然顔が熱くなるのを感じていた。

つまり久し振りの友との邂逅の間もずっと気になっていたのは自分の事?
そして姿が見れたから喜んでいるという事?





……うっわ、どうしよう……

「メチャクチャ嬉しいかもしれない……///」






相変わらずニコニコと上機嫌に笑っている中忍の前で、
表情の殆どが読み取れないと噂の上忍は顔は茹蛸よりも真っ赤になっていた――











長。
ステキなお題なのに
全っっ然活かせてないなぁ;;

20041208 UP






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