セックスと純潔





「分かんないんだよなぁ〜…」
「………」
「何なんだろうね、あれはホント…って、髭。フツーここは、どうした、って聞くのが道理なんじゃないの?俺たち、オトモダチでしょ?」

突如として現れて、然も当然、と言わんばかりに目の前の座席を陣取って、やれ、分からんだの何なんだだの連呼するカカシに、ズビシ、と指差されアスマは面倒臭そうに、息をついた。
まあ、この男が現れた時点で、自分にとって面倒でない事など起こり得ないことぐらい疾うに理解しているのだが。

「なぁにがオトモダチだ、薄ら寒いこと言ってんじゃねぇよ……バァカ」

咥えていた煙草を手に持ち替えて、わざとカカシ向かって煙を吐き出した。

「うっわ、ちょ…何すんの。止めてよね、ヤニ臭くなるだろ。イルカ先生に嫌われたらどうすんのよ」

「ウルセェ…。ってか、何でソコでイルカの名前が出て来るんだよ。アイツだって煙草くらい吸うだろうが」

以前、たまたま見かけたことがある。
火影岩のところで、1人で一服していた。珍しいその姿に声を掛ければ、ほんの稀にだが吸うこともあるのだ、と言っていた。

「まぁ、そーなんだけどさー。でもほら、あの人そんな沢山吸う人じゃないしー…って、何でお前がそれ知ってんだよ?」

片方しか窺えないその不信気な視線にアスマは眉を顰めた。

「いつだったか見かけたんだよ、火影岩ンところで一服してんの。一体、なに想像してんのか知らねぇケド、テメェの考えてるんだろうようなことはまず有り得ねぇから心配すんな。イルカが吸うとは思わなかったけどな、珍しいからちょっと声掛けて――」

「そうっ!そうなのよ!!」

「は…?」

いきなり見を乗り上げたカカシに思わず反射的に身を引いてしまった。
何となく、その気迫に負けた気がして面白くない。

「な…んだよ、いきなり…」

「俺もね、最初はイルカ先生が煙草吸うこと知らなくってさー。いや、別にそれが悪いって訳じゃないんだけど、なんか、意外って感じしない?あの人、実直で真面目でさ、煙草とかも匂いを気にして吸わなさそうデショ」

「まぁ、確かに。そんなイメージもあるだろうけど…んなの、別にイルカが煙草を吸おうが吸わまいが、アイツの自由だろ…」

「だから、別に俺は煙草吸うのを駄目とか言ってるんじゃないんだって」

「だったら何が不満なんだよ…?」

「不満…?なぁに、言ってくれちゃってんの?俺があの人に不満なんてあるわけないじゃん!そうじゃなくてさ、」

何が言いたいのかさっぱり分からん…。

アスマはウンザリしてソファの背凭れに凭れ掛かるようにして僅かに空を伺った。晴れわたる空、今日も天気がいい。――なのに、何で自分は厄介な男に引っ掛かっているのか。わが身を振り返ってアスマは少しだけ寂しくなった。

「――って、ちょとヒゲ!聞いてんの?」
「あぁ、聞いてる聞いてる。だからさっさと続けろよ」

「ったく…。まぁ、とにかく、俺はあの人に不満なんてなーいの。でも、たまにどっちがホントのイルカ先生なのか分かんなくなんだよね…」



「は…?」



どっち、って。どっちも何も、イルカは独りしかいねぇじゃねぇか。

「なんていうかさ、『先生』なあの人は煙草なんて吸わないの。子どもの前じゃ、絶対にね。匂いや子どもの身体への影響云々、色々理由はあるみたいだけど…。でも、自分は良いんだって…『先生』してない時は別に、構わないって言ってたまに吸うンだよねぇ…」

「何だよ、やっぱ不満なんじゃねぇか…。
ま、俺が言うのもなんだけどよ。確かにこんなモン吸わねぇに越したこたぁねぇのは確かだけどな。でも、それはお前の口出しするこったねぇだろうが…」


カカシとイルカが惚れた腫れたの中だということは既に知れている。イルカが一体何をどう間違えてこの男の手中に落ちたのかは知らないが、本人同士が合意の上での付き合いだ口出しするつもりはないが、それにしたって、今のカカシはすこしばかり個人に立ち入りすぎている気がした。
いくら、付き合っている仲だといってもある一定の距離――個人のプライヴァシーが守られるだけは必要だとアスマは考える。


「お前もシツコイねぇ…、別に俺はイルカ先生が煙草吸っても構わないと思ってるって。健康のこと考えたらまあ、止めたほうが良いんじゃないかな、とは思うけど。吸うのなんてほんの稀にだし、そもそもイルカ先生だって煙草の身体に対する影響ぐらい分かってるさ。っていうか、きっと俺等よりも詳しいと思うよ。あの人、何だかんだで結構博識だから」

「――じゃあ、一体お前は何が言いたいんだよ。さっぱり通じねぇぞ?」


「いや、あの人のスイッチは一体何処にあるのかと思って」

「………」

「何よ?」

「いや、余計に意味が分からん」

スイッチって何だ?
今までイルカの喫煙について話をしていたんじゃないのか?

突飛過ぎる内容に、会話の脈絡さえ掴めない。その存在自体がよくフラフラしていて掴めない、と称される男だがついに言語までおかしくなったか、と思う。

「あー、例えが悪かったかな?
――さっきさぁ、受付ンところに報告書出しに行ったんだけど。当然、イルカ先生もいてさ、勿論、俺はそこに出してきた訳だけどね。『任務お疲れ様でした』って言われたの」

「…それがどうしたんだよ、別にいつもイルカが言ってることじゃねぇか。俺だって言われたことあるぞ、それ位…」

「そうなんだよね、いつものイルカ先生なのよー。まっすぐに俺を見てさ、ニコって笑ってくれるの、いやー、もうあの笑顔見たら思わずその場で襲っちゃおっかなーってな気分になっちゃって…vv」

「ヲイ…」

危うく煙草を落としそうになった。
…何か今ものすごく恐ろしい事を笑顔で言ってのけなかったか、コイツ…

「いや、さすがにそんなことしないけどさ。でもねぇ、結構面食らうよ?昨日の今日で、つい朝方までさ俺に縋り付いて顔真っ赤にしてさ〜、もう、涙でグチョグチョになりながらアンアン喘いでたのに…、いや、あの声はホント腰にクる。堪んない。もうすっごいドロドロになって、目なんかトロ〜ンとしてたのに…あ、いや、そこがまた可愛いんだけどさぁ〜vv」

「………」

……誰か、コイツ止めてくれ……



唯一伺える右目を弓なりにして上機嫌で笑うカカシにウンザリして、アスマが小さく息をついた時、







「人前でなんっっの話してやがるんだ、コノヤロウッッ!!!!!!」

「あ、イルカせんせーvv」







まさにその表情、鬼の如く。肩を怒らせ立っているその姿に、どうやらカカシとの話はどこからか聞かれていたらしい、と判断する。

ヤレヤレ、ようやくお役ご免か…。

ふぅ、と小さく息を抜くと、パチリとイルカと目が合った。
瞬間――

お?

カァァァ、と一瞬にして顔の赤くなるイルカ。






「もうっ、アンタなんか知るか〜〜〜っっ!!!」

「えっ、あ、ちょっ、イルカ先生!?」






猛ダッシュで上忍待機室を後にするイルカとそれを追うカカシ。
台風一過よろしく、静かになった部屋で独りアスマはフゥッと、煙草の煙を吐き出した。

ゆったりと流れていく煙を眺めながら、



……結局、惚気られただけかよ。くだらねぇ……
ま、面白いもんは見れたけどヨ……



アスマは苦笑した。











私はタバコ吸えません
会話ばっかりな文だな;;

20050309 UP






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