優しい体温





風邪を引いた。久し振りに。

一人暮らしをするようになって幾許、風邪など一度も引いたことはなかった。
忍は身体が資本。故に健康管理には最も気を使う。いざという時に体調が芳しくないでは使い物になりはしない。
既に正規部隊としての召集は殆どないがそれでもやはり健康管理については常に目を光らせていたつもりだった。何処で何があるか分からない、それこそ里外の任務と同じくらいアカデミーの子ども達が起こしてくれる事故は突拍子もないものが多いから。
直に対処できるように、常に体調は万全にしておく必要があった。


―――なのに、

「ケホッ、ゴホンッ!」

「だ、大丈夫ですか、イルカ先生…ッ!?」

看病などした事がないのだろう、
何気ない咳でも慌てて飛んでくるこの男。はたけカカシ。
オロオロとしている姿は病人であるはずのコチラが面倒を見なければならないのではないか、と思わせるほど不安げでオチオチ寝てもいられない。


「そんなに…心配…ケホッ、しないで下さい…」
「でもッ…!」
「ただの、ゴホンッ…風邪ですよ?寝てれば…コホッ、直ります、から……」
「イルカ、せんせ〜…
―――その、俺に出来る事があったら何でも言ってくださいね……」


覗き込んでくる瞳はそれこそ捨てられた犬か何かようで……

放っておけないんだから仕方ないじゃないか。

イルカは自分に言い聞かせる。


「あ、イルカ先生お腹空いてませんか?俺でも卵粥位なら作れますよ、あと風邪にはリンゴがいいって紅が行ってたからココに来る途中買ってきたんですけど、食べますか?」

何かがしたくて堪らないらしいカカシに、イルカは首を緩く横に振る。
その瞬間、傍目にも分かるほど気落ちするそのカカシの様子にイルカは布団からそっと手を差し出した。

「……イルカ、せんせい……?」
「今はそんなに…ケホッ、お腹は空いてないんです…」
「そうですか…」
「それより―――」
「……?」
「手を、―――手を握ってて貰えませんか……?」
「手?」
「はい…ゴホンッ、駄目、ですか…?」
「そんなこと!!俺なんかの手でよければいつまでも、一日中でも一週間でもいっそ一生でも握ってくれて構いません!!!」

「……ありがとう、ございます」


握りしめたカカシの手は不思議と温かかった。
本来なら、発熱しているはずのイルカの方が体温は高い筈なのに……


こんなことをしても何か意味があるとは思えない。
でも、仕方ないじゃないか。自分を心配してくれるこの人に何もするななんて言えるわけないだろう。だからせめて手を握るくらいいいじゃないか―――

決して自分が寂しいから、とかそういうんじゃない。

風邪を引いたのだって偶然。

ずっと気を張り詰めて徹底的な健康管理を行ってきた。独りになってからは風邪を引いても誰も看病などしてくれる人はいないから。誰かに迷惑を掛けるのは嫌だったから。ずっと気をつけていた。

なのに、いつのまにかソコに居場所を作って居座ってしまった銀髪に……


気を許してしまったからとか、
そんなんじゃ決してない。

断じて違う。








ああ、でも…
人の体温を感じながら眠りにつくのはいつ振りのことだろう…?








「ゆっくり休んでください、イルカ先生…」


イルカの意識はそのままゆっくりと眠りの海へと誘われていった―――――











風邪っぴき。ベタなネタで申し訳ない;;

20041207 UP






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