気づかないふり





「オレ、イルカ先生のこと恋愛感情の意味で好きみたいなんですよね。
付き合ってもらえませんか…?」


確か、そんな始まりだった気がする。


受付所でいつものように任務報告書を受け取って、その紙面の端々に窺える元教え子達の奮闘振りに苦笑しつつ不備の有無をチェックをしている時。
相変わらず表情の窺えないその人は、まるで世間話でもするかのようにサラリと言ってのけた。飄々と、何でもないことのように。

だから、反応が遅れた。

「え…?あの……」
「まあそう言うことなんで、ひとつ考えてみてください」

唯一窺える右目を弓なりにして笑ったかと思うと、彼は来たときと変わらない歩調で去っていったのだ。抑えきれないほどの大きな波紋だけを残して……


「おい、イルカ……?」

同僚の戸惑いを含んだようなその声で我に返る。

「あ…。や、えっと…。
あれだな、上忍の方でもあーゆー冗談を言う人っているんだなぁ〜…」

「そ、そうだな…。
しかも、あのはたけ上忍が言うなんてビックリしたよ」

「安心しろ、俺だってビックリした」


はたけカカシ。
元教え子を通じて何度か話をしたことはあるものの、それほど深い関係でもない。
きっと今回のような件がなければ面識すらも怪しかったかもしれない、そんな細い糸のような、いつ切れてもおかしくない、ただ、それだけの関係。
相手は里随一のエリート忍者で、俺はしがないアカデミーの中忍教師。
別に今の状況に不満があるわけじゃないが、それでも彼と親しくなるには歴然たる壁がそこには存在している気がしていた…。

なのに、

「あの人があんな冗談を言うなんて思わなかった」

そう、本心から思ってたんだ。
てっきり何かの冗談かと…

しかし、そうじゃないと気づくのにそんなに時間は要さなかった。

……性質の悪いことに……






「イルカ先生、今晩お暇ですか?」

「酒の旨い店を見つけたんですけど、飲みに行きませんか?」

「これ任務の報酬で頂いたんですけど、宜しかったら一緒に食いませんか?
一人じゃさすがに食べきれないんで…」





何かにつけて毎日顔を見せる彼に、断る理由も見当たらず、いつのまにか多くの時間を一緒に過ごすようになっていた。
そうして何度か酒を酌み交わすうちに垣間見れるようになった彼の本来の姿に、少しだけ嬉しい気持ちになってる自分に気が付いた。


「イルカ先生?」

「何ですか?」

「俺、あなたのこと凄く好きなんですけど」

「――知ってますよ〜?俺だって、カカシ先生のこと好きですもん」

「だから、そうじゃなくて〜…。
何回言ったら信じてくれるんですか〜…?」


こうやって、この人が口を尖らせて拗ねる姿なんて一体何人が知ってるんだろう?


「信じてますよ、ホントですってば」

「もう、いいです〜。
どうせ明日になったら忘れてるんだから…。先生、今日は少し飲みすぎですよ…?
明日も仕事デショ、あんまり飲みすぎないで下さいよ〜?」


こうやって気遣ってくれるのも本当に嬉しい。


「そうですか〜?
カカシ先生と飲むと楽しいから、どうしてもお酒進んじゃいますね〜」


ニコリと笑えば、


「イルカ先生、ソレ反則……///」


僅かに照れて顔が赤くなる。
口布をとってる所為かソレが如実に分かる。普段なら人前で口布を取らない彼の素顔をいとも簡単に曝け出してくれるのは信頼されてる証拠で嬉しくてくすぐったい。

あなたの気持ちは知っています。
そして、俺の気持ちもきっと決まっています。

でも、もう少しだけ、
この関係を続けたいと思う俺を許してください。

もう少し、

俺が素直に自分の気持ちを認められる日がくるまで、

もう少しだけ……







「大好きですよ…」








―――――カカシ さん?











ビミョーに腹黒イルカ?

20040822 UP






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