| 夢見心地 |
| 暖かい春の日差しが優しく差し込む部屋の中、 窓の外のうららかな陽気に目を細めながらソファに腰掛けていると 「…あら、どうしたの?珍しいじゃない」 「―――あ、こんにちわ」 背後からの見知った声に、イルカは少しだけ振り返りはにかんで応えた。 夕日紅、 イルカの教え子だった犬塚キバ・油女シノ・日向ヒナタの現在の担任。 彼女は今回初めて上忍師に着任したこともあってか、子ども達が試験をパスしたのを契機に何度かイルカの元を訪れている。子ども達について知ろうとしてくれるその真摯な姿勢に好感を持ったのはもう随分と前のことだ。 「アイツに用事?」 「えぇ…まぁ…何といいますか…」 紅の質問にイルカは少しだけ言葉を濁した。 名前など出す必要も無く、紅の示す人物は一人しか居ない。 それが自分とその人物の関係性を如実に物語っているようで、イルカは既に周知の事実であることにほんの少しだけ複雑な気持ちになった。 改めて言い切られると、どこか照れくさい。 「……? 随分歯切れが悪いわね」 イルカが今腰掛けてるソファは、 丁度紅の立つ位置から見ると背を向ける形となる。 明朗快活、 そんな言葉がよく似合うイルカが言葉を濁す理由が気になり、少し詳しく話しを聞くつもりで紅はソファへ回り込んだ。 そして、その瞬間――― 「……ナルホドね」 「はははは…」 全てを悟る。 訊くまでも無い、そこにはイルカが言葉を濁す理由が大きく横たわっていた。 「…珍しいわね、アタシ初めて見たわ」 「相当疲れてたみたいです。少しだけ――って」 イルカの膝の上、 そこには鮮やかな銀色。いつもなら胡乱げに開かれている瞳はその形を潜め、安らかな寝息を立てていた。 さすがに素顔を見せるのは憚られたのか口布はしたままだが、額宛はイルカの横に丁寧に畳まれ鎮座している。 「…コイツ、こんな顔出来るのね…」 はたけカカシ。 この忍びの世に身を置く者であれば知らぬ者などいないのではないか、そう言われても頷ける他里のビンゴブックにも名を馳せる実力者。 いつもどこか飄々としていて普段の発言はしこたま馬鹿な癖に、その立ち振る舞いの全てには隙が無く、常に周囲へと神経が張り巡らされいる状態。 しかも、それを当人は当然のモノとして認識し、且つ、いとも平然と実践してみせる。 だからこそ、 こんな穏やかに他人の気配にも気付かないほど熟睡する、その姿に驚いた。 でもその顔が本当に幸せそうで。 「…ま、カカシに貸し一つね」 「え?…紅さん?」 「もう少しそのままソイツ休ませて上げるといいわ。 ちょっと任務が立て続けで、いつも以上に神経張り詰めてたみたいだし」 「はぁ…」 「それに、」 「……?」 「ソイツが熟睡できる場所はソコしか無いみたいだから」 「えっっ!?///」 いたずらっぽくウィンクすると、 イルカの動揺そっちのけで豊かな黒髪をふわりと靡かせながら、そのまま紅は上忍待機室を後にした――― + + + + + 「……オイ、何だよこの『しばし立ち入り禁止』って」 「あら、アスマ」 「あら、じゃねーよ…。 ご丁寧に分かり易いトラップまで仕込んで何やってんだ、お前…」 「ちょっとね、カカシに貸し一つ」 「は?」 「多分アタシが入った時点で意識は浮上してたのと思うのよね〜。 ――ま、それだけイルカに傍に居て欲しかったってことなんだろうけど」 「意味わかんねぇぞ」 「この程度のトラップなんてものの数分で解けるだろうから大した時間稼ぎにはならないけど、それでも誰かが来るまでは2人きりになれるわけだし。 ―――明日辺りイイ酒が手に入るんじゃないかしら?少し位なら分けてあげてもいいわよ」 「…一体何やったか知らねぇけど、肴を用意すればいいんだな」 「ふふ、話の早い男って好きよ」 「そいつはどうも」 + + + + + 「―――カカシさん、起きてるんでしょう」 ゆっくりと語りかける。 すると、つい先程まで聞こえていた安らかな寝息がピタリと止まった。 イルカの膝の上を占拠していた鮮やかな銀色がモゾ…と動き、色の違う双眸がイルカを捉える。 「気付いてたんですか…?」 それでもどうやらまだ完全な覚醒には至っていないようで、その瞳にはまだ少し眠気が宿っているようだった。 「確証があったわけじゃないですけどね、多分起きてるんじゃないかなと」 「ふぅん…」 「もう少しだけ、大丈夫ですよ」 「うん…」 そうしてそのまま再び眠りにおちるカカシを見届けて、 イルカは膝の上にある髪を緩く梳きながら、先程と同じようにうららかな陽気降り注ぐ外を少しだけ目を細めながら眺め始めた―――――― |
アス紅大好きです
20110925 UP