ポーカーフェイス





「あの人ってホント感情を隠すのが巧いよね」
「あぁん?」

人でごった返すアカデミーの受付。
訪れる時間を間違えた、と小さく顔を顰めながらソファに腰掛けたのが運の尽き。アスマはふらりと現れて隣に腰を下ろした同僚の一言にめんどくさそうに応えた。

はたけカカシ。

この男が齎す話が面倒でなかった試しがない。
しかし無視を決め込んだところでどうせ、意に介することなく話し続けるのだこの男は。

「―――あのひと。いーっつも、ニコニコ笑ってるデショ?」

カカシの視線を追えば、その先にいるのは―――


「……イルカ?」


仕事に追われるかのようにヒョコヒョコと動く黒い尻尾。
アカデミーの教師の任にありながら、受付業務もこなすうみのイルカだった。頭上に結い上げた黒髪と、その鼻筋を走る傷が印象的な男。
その表情は優しい笑みで彩られ、受付では本人の預かり知らぬ所で密かに癒し系として重宝されている。今日、受付がこんなにも込んでいる理由の一端を彼が担っていることは言うまでもない。

「あいつがどうかしたのか?」

カカシの口からイルカの話題が出てくることにアスマは首を傾げた。
昔からカカシは殆ど他人に干渉しない。干渉しない、というよりは興味がない、と言ったほうが正しい。殆どの事象において興味関心が薄いのだ。
何故そうなったのか詳しいところはアスマには分からない。
それとなく聞いたところでいつもはぐらかされてしまう。しかし、その原因の一端は彼の今まで送ってきたソレに帰結されるのだろう、というのは何となく知れてしまい強く追求出来ないでいた。

「ん〜…。いや、別に何があるわけでもないんだけどねー…」

しかし、その視線は相変わらずイルカを追ったまま動こうとしない。
そんなカカシの動向にアスマは人知れず驚嘆した。この男が何であれ興味を示すことは稀なこと。
カカシとイルカの接点は、と言えば今の部下を介して以外は考えられない。現在アスマの受け持っている部下もそうだが、卒業以前、彼らを担当していたのがイルカだった。
アスマなどは既に何度か上忍師としての任を受けイルカとの接触は数え切れない。忍びとしての能力は共に任務に出たことがないので把握しきれていない未知数な部分もあるが、教師としての素質は最良のものだと思っている。
それなりの実力を伴った男だ。


「何がそんなに楽しいのかなぁ〜、と思ってさ」
「……?」

「いっつもニコニコしててさ。何考えてんのか分かんないじゃない?」
「そうか…?」

確かにいつもニコニコしている、というのは強ち間違いではない。彼は常に、例えそれがどれだけ血生臭い任務だったとしても、それを遂行してきた忍びに対し笑顔で接する。そして一言、「お帰りなさい、お疲れ様でした」というのだ。
たかが一言、されど一言。そのイルカの一言で一体何人の忍びの心が救われたか知れない。この場所が、この木ノ葉の里こそが自分の還る場所だと、教えてくれる。

しかし、カカシは言う。
その笑顔は何を考えているか分からない、と。

そうだろうか?
アスマが思うにイルカほど感情を露呈する忍びはいないだろう、と思う。

「お前、ついこの間アイツとやり合ったばかりだろうが…」

それはつい先日のこと。
カカシとイルカはカカシの担当する下忍の中忍試験受験資格を巡って対立した。自分より階級の高い者に、もしかしたらその場で殺されていた危険性さえある中、イルカは敢然とカカシに喰ってかかって行った。
その姿にアスマなど驚嘆したくらいだ。
あの、「写輪眼のカカシ」にここまで明瞭と意見する男がいたとは・・・、と。

「いや…、そうじゃなくってさ。その、何ていうのかなぁ〜…。
うん。あれはさ、あれ、あれもあの人の姿なんだけど。あれはナルト達が関わってるからさ、つい地が出たって言うの…?あー、でもちょっと違うかも…。
でも何て言っていいか分かんないけど、あの笑顔、俺はあんまり好きじゃない」

「さっぱり意味が分からねぇぞ、お前…」

「うん、安心して。俺も言っててよく分かんないから」

「……何だ、そりゃ……」

「でもねー、何かイヤなのよ。あの笑顔。
あの笑顔見せられるくらいなら俺はこの間みたいに怒気剥き出しの顔の方がいい」

「カカシ、お前……Mか?」

「死んどくか?髭熊」

「冗談」


口の端だけを上げて笑えば、カカシはソファから腰を上げた。手に持った報告書がヒラヒラと揺れている。
話しているうちにいつの間にか受付の列は随分と減っていた。

そして、カカシの向かう方向…

アスマは小さく苦笑した。




それでも、お前はいつもイルカのところに出しに行くのな。




確かな足取りを持って進むその猫背は気付いているのだろうか、その事実に。


めんどくせぇヤツだ、

アスマも咥えていた煙草を消して立ち上がった―――――











何だか甚くビミョーな話;;
無自覚なカカ→イルということで
アスマ実はかなり好きです

20041004 UP






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