御伽噺





それはとっても不思議な話



****


――…っく、ひっく…うぅ…っえっく…


泣いてる声がする。
まだ幼い子どもの声…



「どうした?何でこんな所で泣いてるんだ…?」

差し出した己の手。

―――え?

それは過去に打ち捨てた筈の黒で覆われた鉤爪。

なぜ?
どうして?
俺は疾うに抜けた筈だ。


なのに、


気が付けば俺は闇を駆け抜けるための装束を身に纏い、
獣の面をつけて、

血に濡れた刀を持って、

立っていた。




――とーちゃんっ、かーちゃん…っうぇ…っく…




蹲って顔を埋めて泣く子ども。
黒く揺れる髪。
背中に背負っている一番は、
いつだったか見せてもらった過去を切り取ったソレそのもの。

もしかしなくたって…


「…イルカ、先生…?」


そんなこと、あるはずが無い。
あの人は俺と一つしか変わらないんだから。
嗚呼だけど、不思議と確証が持てる。


――っぅ…ひっぅ…っく…

「泣かないで?ねぇ、イルカ先生…すぐ、すぐに行くから。すぐにアナタの元に行くから…。アナタをもう、独りになんてさせないから。もう少しだけ、待ってて…」

――うぅ…ひっく…っ

「イルカ…」



****


「――って言う夢を見たんですよ〜…」
「だからって、いきなり道端で抱きつかんで下さい!!」

見事に決まった右ストレートも何のその、懲りずに抱きつくカカシを引き剥がそうとしてイルカが怒鳴る。突然現れたかと思ったら、「アナタには俺がいますから〜〜ッッ!!」という意味不明な言葉と共に上忍の全力をもって抱きしめられた。
正直な話、あばらの一本や二本は逝くんじゃないかと思うほど…

……全くもう……

「――で、何でアナタが泣いてるんですか…?」

ぎゅうとイルカを抱きしめたまま肩に顔を埋める艶やかな銀髪に手櫛を通す。
ピクリ、とカカシの身体が震えた。

「だって…イルカ先生が独りぼっちで泣いてたかと思ったら…」

戦場では死神とも恐れられるこの銀髪の男は本当はとても心が優しい。敵にはどこまでも非道になれる強さと共に、仲間に対する優しさはどこまでも深い。
イルカは自然と口が綻ぶのを感じた。

「カカシさん…」

自分の過去にさえ涙を流す男に胸を占める想いはどこまでも甘い。


「カカシさん、少し不思議な話をして上げましょうか」
「イルカ、せんせぇ…?」

ゆっくりと言い聞かせるように、イルカは語り始めた。

「あれは…まだ、俺が小さい頃の話です。俺ね、確かに昔はずっと一人で泣いてました、友達といる時はバカやって笑ってたけど…やっぱり寂しくて、誰もいない家で一人泣いてました…」

ぎゅ、とカカシのイルカを抱く腕に力が篭る。

「でもね、ある日…いつだったかは覚えてないし、その人物が誰なのかも分からないんですけど、『待ってて…』って言われたんです。すぐに行くから、独りになんてしないから、って。暗い部屋で、やっぱり独りで泣いてる時でした…」

「―――それって…」

ようやく顔を上げたカカシにイルカは小さく頷いた。
そう、今さっき、カカシが話した夢と同じ。

でも、確かにイルカは聞いた。
幼い頃、独りで寂しさをどうにも昇華できなくて泣き腫らしていた日々に舞い降りた声を、そして、忘れる筈が無い。後ろ抱きにされて、僅かに視界に入った銀色を。

幼い子どもだった自分よりもずっと大きな身体に抱きすくめられたあの時、不思議と恐怖は無くて、ただ暖かかった。

カカシとイルカは一つしか年は変わらない。だから、自分が子どもであった時分は、カカシとて同様に子どもだった筈。でも、何となく、あの人はカカシなのだろうとイルカは思う。どうしてかは分からない。そして、何故今更そんな夢をカカシが見るのかも。

でも、

「――カカシさん、俺ね、その言葉に救われたんです。
あなたの見たのはただの夢かもしれない、それに、俺が覚えているその人は全然関係ないのかもしれない。でも、そんなのどうでもいいじゃないですか」

「………」

「現にこうして、俺とあなたは会えた。もう、俺は独りじゃない寂しくなんか無い…」

「イルカ先生ぇ…」

ここにこうして一緒にいられる、その事実があればいい。



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それはとっても不思議な話











ツッコミはナシですよ〜
不思議な話なんですから

誰か暗部カカ×仔イルカとか
書いてくれませんかねー?

20050505 UP






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