あなたしか見えない |
イルカが里外の任務に出た。 ランクとしてはそれほど危険性が伴うとも思えない、Cランクの下と言ったところ。所謂、身辺護衛。山道を一人で歩くという老人の付き添い。他に的確な空きがなかったこと、そしてイルカの性格を加味しての割り当てだったと思われる。 「………」 ―――静かだねぇ…、今日は… カカシは視線を任務に勤しむ子供たちへと僅かにずらして思う。 既にイルカが任務に出て一週間が経とうとしていた。目的地など、任務の詳細についてはさすがのカカシも知る術は無く、ただ、待つだけの日々。最初は恩師の珍しい任務に騒いでいた子供たちも今ではすっかり大人しい。ナルトは当然、サクラや、あのサスケまでもがイルカの帰りを心待ちにしているかのようだった。 黙々と、しかし、少し乱れた気配は落ち着いてない証拠。 何だかんだで、子供たちがこうも長い間イルカと顔を合わせないことは初めてじゃないかと思う。ことあれば、受付所まで付いて来る子ども達の姿にイルカの人柄を伺えた。そして、どうやら他の班もカカシ班程でないにせよ、イルカの顔見たさに子供たちが勝手に付いて来てしまうらしい。 ぼやいていたアスマや同意する紅の、しかしどこか楽しそうとも嬉しそうとも取れるその姿を思い返してカカシは小さく息をついた。 ホント、何だってあの人はあんなに人気があるかな…… 改めてライバルの多さに気が滅入る。 カカシがイルカと知り合う切っ掛けとなったのは今の教え子が縁だ。それまで見込みあると思える教え子に出会うことも無く、今回もまた駄目だろう…、そんな思いで試験を実施した。 しかし、子供たちはカカシの予想を大きく裏切り今に至る。 九尾をその腹に宿した忌み子、うちはの生き残り、そして忍道より恋愛の少女。それぞれにクセはあるもののその芯に根付く思いの強さは確かで、良くも悪くも真っ直ぐだった。中でも、正直ナルトの成長ぶりには驚かずにはいられなかった。どこまでも真っ直ぐに前を見据えたその意志の強い澄んだ青は、かつて師と仰いだその人によく似ていて…。誰が、彼をここまで導いたのか。ありがとう、と言いたかったのかもしれない。あの人の子をここまできちんと育ててくれてありがとう、と。きっとあの時、そう、言いたかったんだと思う。 しかし、実際は…… 「イルカ先生、好きです」 「……は…?」 カカシ自身ですら言ってしまった後に、硬直した。何でそんな事を口走ったのか、動揺は口布やら額宛てで相手に伝わる事は避けられたが、イルカから差し出された手が行き場を失って、その場を包んだ空気の微妙さと言ったら…、思い返しただけでも自己嫌悪に陥らずにはいられないあまりの失態。 あまりに鮮明に思い出せる過去の情景に思わずカカシの眉間に皺が寄る。 その時は巧く誤魔化して何とかしたものの、第六感とでも言えばいいのだろうか意識が自覚する前に本能が悟ったその気持ちを否が応でも知ることになるのに全くといっていいほど時間は掛からなかった。 初めて会った時、まず釘付けになったのはその笑顔。 忍びとは思えないほど小気味良いほどに爽快な笑顔が、とても印象的だった。そして、笑ったかと思うと嬉しそうに飛びついたナルトの頭を撫でている姿が目に入った。そのナルトを見る目があまりに優しそうだったから…。気が付けば、脳が言葉を理解する前に口走っていた。 何で…?どうして…? イルカ先生は男でしょうに…。 俺、そんな趣味なんてあったっけ…? いくら自問しても答えが出る筈もなく、募るのはそのやり場のない想いばかり。気が付けばその姿を視線で追っていて、最近ではイルカバカと称されるナルトよりも先に彼の気配に気が付くようになったのは誰にも言えやしないが、ひっそりカカシの自慢だったりする。 一体、いつ帰ってくるんですか?イルカ先生…… アイツ等もそろそろ限界。そして、何より俺の方が限界です…… 一週間。 会えないだけで、その姿が見れないだけで、どこか落ち着かない自分は目の前で任務に精を出している子ども達と大して変わりないではないか、と思わず失笑が漏れる。本意ではないが、里一と称される忍びが情けない。 でも、やっぱり会いたいと思うのはあなたが好きだから。 人を好きだと思ったことはなくて、この気持ちを大事にしたいと思った。 そして出来ることなら知ってもらいたい、と。 あの温かい笑顔に迎えてもらいたい。 「あー…早くイルカ先生ってば帰ってこないかな〜…。会いたいってばよー」 内心を見透かされたかのように、呟いたナルトの一言に思わずドキリとする。 しかし、そんなことは億尾にも出さないで…… 「なぁに言ってンの。イルカ先生が戻って来てたって任務が終わってないんじゃ会いには行けないんだからね。ま、精々頑張りなさいよ」 「ムキー!少しくらい手伝ってくれたって良いじゃんよ!!」 「それじゃあ修行にならないデショ?」 「……っていうか、カカシ先生がちゃんと時間通り来てくれてれば、もう任務も終わってると思うんですけど」 「――――全くだな」 「ま、待つのも忍耐の修行ってね」 一頻りいつもの遣り取りを交わして、 任務が終わった頃には疾うに日も傾き始めていた。ここ一週間、ナルト達がカカシに付いて受付所に行こうとすることはない。理由なんてのは言うまでもなく、 ……ホント、現金だよねアイツ等 特にする事もなく、ぼんやりと歩きながら先刻別れた子ども達の後姿をカカシは思い浮かべた。比喩でも何でもなく本当にさっさと帰ってしまった。 かく言う、カカシもさっさと受付を済ませてアカデミーを出てきてしまったので他人の事は言えない上に、子ども達が残ったところでイルカがいなければする事など何もないのも事実なのだが。 さて、どうしたもんかね… 何となくまっすぐ家に帰る気にもなれず、 だからと言って、飲みに行きたい気分でもない。 フラリと気の向くまま、それこそ足の向くまま―――――― |
イルカ先生が出てこないーッ!?
長くなってしまいました…
ズミマセッッ!!
20050113