ブラブラと行く当てもなく歩いて、ふと気が付けば里の外れ。
夜でも賑やかな繁華街を抜けてしまった所為か閑散とした場所に聞こえてくるのは近辺を流れる川の音と、たまに風に揺らぐ木の葉だけ。

―――の筈、だった。


「………?」

僅かに感じる気配にカカシは眉をひそめた。
こんな時間、こんな場所に、里の住人がいるとも思えない。しかし、確実に『何か』がそこにいることは長年によって培われた勘が告げている。殺気はない。だが、気配を殺しながらもこちらの様子を伺ってはいるようだ。
その姿はまるで捕食者から態を隠そうとする小動物のようにも思えた。


「何者、大人しく出て来なよ。こそこそ隠れて何やってんの?
……まさか隠れて逃げ果せるとは思ってないよね、見つかった相手が悪かったと思って諦めな」

いきなりその、感じる気配の後ろに回って首を掻っ切っても良かったが何となくそうはしなかった。自分の力を過信する訳ではないが、逃さない自信がカカシにはあったし、何より、その気配の主に戦う意思が無いように思えたからだ。戦う意思が無いのなら、ここは戦場ではない捕らえるなりして火影に突き出せばいい、敢えて無駄な血を流す必要なないだろう。

案の定、カカシの呼び掛けにも僅かに動揺が走るだけで何も反応は無い。

……ヤレヤレ、どうしたもんかね。

思わず、同僚の口癖を漏らしたくなる。しかし、それは辛うじて言葉に上ることは無く僅かな溜め息と姿を変えた。

「誰だか知らないけど、殺りあう気がないんなら大人しく出てきなさいよ。別にソッチにその気がないんならコッチも何かしようなんて思わないから…」

返事は無い。
まるで虚空に向かって話し掛けているようだ、とカカシは思った。
しかし、確実にそこに『誰か』はいる。それは絶対的な自信を持って言えた。

長期戦か…?

ふと脳裏を過ぎったその言葉に思わず眉を顰めたくなる。
―――正直、メンドクサイ
しかし帰ったところでする事が無いのもまた事実で、カカシは首の後ろを掻きながら一歩前に踏み出した。既に気配の位置など何となく把握している。

カサリ、と草を踏む音が妙に響いた。

再びビクリ、と気配が揺れた。
てっきりこんな時間にこんな場所に潜んでいるのだから、他里の忍び――最悪、草かなにかだと思っていたが、もしかしたら違うのかもしれない。
忍びにしては気配の隠し方がなっていない。余程の手練でなければ大方何かしらの『モノ』を感じとれる自負はあるが今回に限っては探るまでも無い、相手は気配を殺しているつもりなんだろうが要はだだ漏れなのだ、その動揺だとかが。






「はい、見ぃ〜っけ」

「―――ッ!!」

「……って、―――え?」






予想通りというか何と言うか、
元々、この里は自然と一体化した造りをしている為、緑は他里に比べても豊富と言えよう。その為、少し閑散とした場所に足を踏み込めばそこはあっという間に森となり身を隠すには具合が良いのである。
巨木の陰、洞に身を潜めるようにして縮こまっていたその体躯。草木の茂る陰に隠れてその様相は見えないがどうやら身体つきからして成人男性らしい。怪我でもしているのか、と思って覗き込めば―――――








「………イルカ、先生?」









不意に差し込んだ月明かりに照らし出されたその人は
ずっと帰りを待ち望んでいた人だった。













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イルカ先生出てきたけど
喋ってないしッ!!<ツッコミ

20050114