「イルカせんせ〜ッッ!!!!!」
「コラ、ナルトうるさい!ここ、病院よ!!」
「……ウスラトンカチ」

突然、騒がしい訪問者達にイルカはビックリしたかのように入り口の方を振り向いた。子ども達の後ろからその様子を伺っていたカカシはイルカが気配すら感じ取れない一般人になっている事を改めて痛感する。
今までのイルカであったらなら、確実に部屋に入る前に自分達の気配に感ずいていた筈だ。

「何だよッ、サスケっっ!!」
「……フン」

「はいはい、今はサクラとサスケの言い分が正しいよ。大人しくするって言うから連れて来てあげたんでしょ。
―――スミマセンね、イルカさん」
「え…?あ、カカシさん?」

馴染みの声に安心したのか、不意にその表情に笑顔が戻る。

「どーしても、コイツらがあなたに会いたいってウルサくてね…」
「そうだったんですか…」

「だぁって、カカシ先生ばっかりイルカ先生の見舞いに行ってズルイんだってばよ!俺だって、イルカ先生にずっと会いたかったのにッ!!」
「あ…。えーっと…」

「ナルト、ですよ」
「ああ、君がナルトくんか。心配かけて済まなかったね…ありがとう…」

「イルカ先生…」

一瞬だけ、僅かに歪んだナルトの表情をカカシは見逃さない。サスケとサクラにも僅かながら動揺は走ったようだった。当然だろう、あの恩師が自分たちのことを全くの他人に接するかのように他人行儀なのだから。前もって忠告しておいた事とはいえ、それを実際に目の当たりにした衝撃は大きい。

「な、何言ってるんだってばよ!ナルトくん、なんて…何かイルカ先生に言われたら背筋が寒いっての!呼び捨てでいーよ、イルカ先生。それより、早く良くなってくれよな!」
「ありがとう、ナルト…」
「おうッ!」

「先生、目の調子はどうなんですか…?」
「大丈夫だよ、もうすぐぼんやりとだけど視力は回復してくるだろうって言われたから。心配掛けてしまったね。えっと、君は……」
「サクラです。あ、私もナルトと一緒で呼び捨てでいいですから!」

「――あれぇ?サスケは挨拶しないの…?
今、イルカ先生は目が見えないから話さないと誰だか分からないよ?」

「……サスケです」
「わざわざ見舞いに来てくれてありがとう」

ニコリ、と笑うその表情は昔のそれと変わらない。けど、確実に違う笑顔。
複雑な表情を伺わせる子どもたちに、まだ会わせるのは早かったか、とカカシは思う。しかし、イルカが先日カカシに吐露した不安を少しでも軽減する為にはこうして新しい人を、出来れば身近な人物をまず覚えた方がいい。
それにもしかしたらナルトと会えば思い出すかもしれない、という淡い期待もあった。残念ながらその期待は露と消えたがまだ確率が無いとは言わない。イルカはカカシも含めて、まだ誰の顔も見れる状況に無い。顔を見たら、そして話をしたら、思い出すかもしれない。

親しげに話し掛けてくれる、自分を頼ってくれるイルカ。
爽やかに笑っていた、みんなを愛してみんなに愛されたイルカ。
同じイルカでもやっぱり違うイルカ。

思い出して欲しいと思う反面、思い出さなくても構わない。
カカシにはそんな複雑な思いが根付き始めていた。

たどたどしいながらも、子ども達との会話は進んでいるようだ。変わらない子ども達のイルカへ接し方は今のイルカにはどういう風に受け止められているのか。



「はーい、今日はココまでね。イルカ先生は一応怪我人なの、そんなに沢山喋ったんじゃイルカ先生が疲れちゃうデショ。」

不満げに文句を垂れるナルト達を尻目に、いつもより少し離れた場所で様子を伺っていたカカシがイルカとナルト達の間に入るように立った。

「俺はもう少しイルカ先生と話があるから、お前等は先に解散」
「え〜、カカシ先生ばっかりズルイってばよ〜ッ!」
「なぁに言ってんだかねぇ…。
―――とにかく、明日も今日と同じ場所に集合ね。はい、解散!」

ちぇ〜、と唇を尖らせるナルトにイルカが苦笑する。
こういった仕草は本当に変わらない。

「気をつけて帰れよ、お前たち」

「おう!また来るかんね、イルカ先生ッ!!」
「お邪魔しました〜。先生お大事にネ」
「……失礼します」

台風一過とでも言おうか、子ども達が去った病室は一瞬、静寂に包まれた。


「いい子、達ですね…」
ポツリ、と漏らしたのはイルカ。

「ええ、勿論。だって『イルカ先生』の自慢の教え子ですもん」
カカシもニコリと笑う。

「でも…」
「――だから、『あなた』も覚えてあげて下さい。イルカさん?」
「え…?」

「無理して思い出そうとする必要はありませんよ。あなたはあなたです、うみのイルカであることに変わりは無いけど、でもあなたが無理して今までの『イルカ先生』になる必要はないでしょ。
忘れたことは新しく覚えればいいんですよ。そうして、新しいものを沢山覚えていく中で何かを切っ掛けに思い出す事もあるかもしれないでしょう?―――ね?」

「忘れたことは、また新しく……
そう、ですよね…。また新しく…そうしたら、何かを切っ掛けに思い出すことだって…」


己に言い聞かせるように呟くイルカに、

「そう、それでいいんですよ。焦らないで、ゆっくりいきましょう」






例え、どんなあなたでも俺はあなたが好き。
独りで苦しまないで。
独りで泣かないで。
俺があなたの傍にいるから、どうか独りで――――







カカシは優しく呟いた。



「―――じゃあ、イルカさん…。今日は俺もこれで失礼しますね?」
「あ…っ、……はい。ありがとうございました」

「フフ。そんな顔しなくても…また明日、お邪魔しますよ」
「え?そんな顔って…?」

「あれ?イルカさん、今ちょっと寂しい…って思いませんでした?」
「ッッ!?////
な、なんで俺がそんなことッ!?」

「えー?俺は寂しいですけどね、イルカさんとお別れするの…」
「なっなっ…!!」

真っ赤になったイルカにクスクスと笑っていたかと思うと、
「また明日来ます」
カカシは耳元で囁いて姿を消した。



病院の入り口に留まっている小さな3つの気配に向かって―――――













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無駄になーがーいー…
てゆーか支離滅裂?(滝汗

20050115