星の導き
…さて、どうしたものか。
久し振り、と言えば久し振りの里外の任務。
ランクとしては決して高くない割と容易な任務、…の筈だった。
しかし、実際蓋を開けてみれば――
わざと依頼内容を安易にし、ランクを低く強いては依頼料を安く済ませようとする輩は実はそんなに少なくない。
今回もまさにそれ。
「……困った、な」
下腹部の右側、溢れ出る己の血にイルカは溜め息をついた。
刺客は全員倒した。頼まれた物は既に他の仲間が里に持ち帰っていることだろう、任務は完遂だ。
元々ここに残ったのは自分の意志。
追い迫る刺客を足止めするのであれば、多分、班の中で自分がそれに向いてると思ったから。
短時間でトラップを組むのは得手だ。
そして、それらの殆どは成功を収めた。
ただ少しだけ、予測外のことも起こって戦闘する羽目になっただけ。
ある程度覚悟していたので、これに至っても後悔の念はない。
どう贔屓目に見ても傷は深い。取り合えず、持ち合わせで延命処置を施してみるが如何せん限界があった。
どうにも止まってくれない血液に徐々に意識が薄れていくのが分かる。
息苦しさも勿論、発熱もあるのかもしれない。傷口を抑える手の力が抜けてきた。力が入らない。
きっと里についた仲間が救援の申請をしてくれているのだろうが、さて、それまで自分がもつかどうか。
正直微妙な所だろう、とイルカは踏んでいた。
まさかよりにもよってこんな日にこんな事になるなんて。
こうして戦闘で命を落とす事に悔いはない。
自分はあくまで忍びであって、こういう危険性が常に付き纏うリスクを背負って尚、この仕事を選んだのだから。死ぬ事に対する恐怖を感じ得なかった事は一度たりともないが、それでも死に直面した今、取り乱す事もない。ただ一つ、気に掛かることと言えば――――
『任務、気を付けていって来て下さいね。イルカ先生が帰って来たら、あいつらと皆でパーティーするんですから!』
普段とは逆のパターンに戸惑ったのは自分。
見送ることには慣れていても見送られることには慣れていなくて、少しだけ恥かしかった。
今頃あの人はどうしているだろうか。
寝起きのボサボサの頭で、朝は苦手の筈なのにそれでも頑として玄関まで見送ることを譲らなかったその姿を脳裏に描いてイルカは小さく苦笑した。
パーティー、とは一体何を指していたのかイルカは知らない。残念ながら彼は教えてはくれなかった。どうやら子ども達と手を組んで何かをしようとしているらしかったのだが、イルカが感づいたのはそこまでだった。
一体何をしようとしていたのか、
勿論、それについても気になるところだが、それより何より…
「…会いたい、かな…」
死、という現実が訪れようとしている今、恐怖よりも先に寂寥感が胸を巣食う。
会いたい。
もう一度、最後に…
あなたの顔が、見たい。
会いたい。
会いたい、
会いたい、会いたい、会いたい…
ものすごく、
あなたに、
会いたい――――
「カ…カシ、さん……ッ」
冷たいものが自然と頬を伝う。
いくら死を覚悟していても、それでもはやり、――死ぬのは怖い。
もう二度とあなたに会えない、その事実が身を竦ませる。
取り乱して、泣き叫んでそれでもし自分の命が永らえるなら、いくらでもみっともない姿を晒したって構わない。
俺は…、
「――――――イルカ先生ッッ!!!!」
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スミマセン、続いちゃいます…
20050807