ずっとずっと あなたと…  2








「いい天気ですねぇ…」

翌朝。
早朝に里を出て、街道を抜けて山間の道に入る。

昨夜あれほど慌てて帰宅したわりには、外出のための諸手続きに関しての申請は既にカカシの手によって済まされていた辺り手際のよさには舌を巻かずにはいられない。

「でも、まだこの時間は少し冷えますね…」
「そうですね、でも冷えた空気の感覚って気持ちよくないですか?」

「俺、寒いの好きじゃないです」
「それは、知ってます。カカシさん、体温低すぎるんですよ」
「そうかなぁ…イルカ先生が温かいだけだと思うんですけど……」
「いや、俺は平均的ですよ。普通、普通」
「えー?」

とはいえ、もう空は白み始めていた。山の間から太陽が顔を出すまで然程時間は掛かるまい。
そうすればこの冷えた空気も一変、あっというまに初夏の香りに包まれる事だろう。

「もうすっかり夏の装いですね…」

青々と茂る木々を眺めてイルカがポツリと呟いた。

「そうですね、日が昇ればあっという間に暖かくなりますし。今年、ちょっと暑くなるの早いですよね?」
「ああ、確かに。なんか結局桜もあっという間に散っちゃったイメージだし。春、通り過ぎちゃいましたねぇ…ていうか、年を取ると月日の流れが速い感じ」

「ちょっと。ナニおっさんくさい事言ってるんですか、俺達まだまだ若者よ?」
「ははッ、そうですねッ」

勘弁してくださいよ、とぼやくカカシを横目にイルカはスミマセンと笑った。

「どうも普段子どもたちを相手にしてるせいか、年取ったなぁとか思うんですよ」
「…そりゃ、アイツ等に比べたらおっさんかもしれないけど…。でもまだ若いでしょ、おっさんってのはアスマ見たいな奴のことを言うんですよ〜!」
「いや、アスマ先生だってそんな俺たちと年変わらないですよね?お幾つでしたっけ、忘れましたけど…」
「いやいやアレは例外、無駄な貫禄っていうんですかねぇ〜。あと趣味が爺むさいから」

「趣味の観点ではアナタの方がよっぽどですよ…」

「え?なんで?」
「成人指定の小説を公然と読まんで下さい」

「違いますよ、イルカ先生!イチャパラをその辺の下世話なエロ小説と一緒にしちゃ駄目ですってば―――!」
「あーはいはい。知ってます、知ってます、カカシさんがその作品を愛してやまないのは知ってます。別に読むなとは言ってませんよ。ただ、『公共』の場で読むのは如何なものかという話をしてまーす」
「イルカ先生も読めば作品の素晴らしさが分かるのに……」

「謹んでお断りします〜」

他愛のないやり取り。
ココ暫くはお互い忙しくて、あまりゆっくり会話をする時間も無かった。
連休前のイルカは先月の新入生を迎えるための準備から始まり、担当している教え子達への宿題作成やらその他諸々の事務処理やらで多忙を極め、それがようやく落ち着いてきたカと思いきや、今度はそれを見計らったかのようにカカシの方にチラホラと個人的な任務要請が舞い込み始め、殆どすれ違いの生活を送っていた。
少し前にあった久しぶりの休日もカカシの急な任務要請で潰れてしまった為、こうしてゆっくりと話をするのは一体いつ振りなのか?正直数えるのも面倒くさい。

まるでこれまでの会わないで居た時間を埋めるかのように、お互い色々なことを話した。

子どもたちの事や同僚の事、
一人で居た時の事や、仕舞いには忍術についての意見交換まで。

「イルカ先生の着眼点て面白いよね?」
「そうですか?普通だと思いますけど…。カカシさんだって、何も考えてないようで色々考えてらっしゃるじゃないですか〜」

「え、ちょ、ソレどういう意味!?」

「ふふっ冗談ですよ。さすが、というところですかねぇ」
「褒められてんだか、貶されてるんだが…」
「失敬な、褒めてるんですよー?」

「それはそれは、アカデミーの先生に褒めていただけるとは至極光栄。で、ご褒美は…?」
「赤ペンで花丸に旗でもつけますか?」

「うわーい」

「うっわ、全然嬉しくなさそうだし。どんだけ棒読み」








それから、一体どれほどの距離を移動しただろう。
里を出た頃にはまだその顔すら拝めなかった太陽も、気がつけば既に真上まで昇りつめようとしている時間。

道なき道を枝伝いに駆け抜けて幾許、

「もうそろそろだと思うんだけどな…」
「目的地ですか?」

「はい」

カカシは昨晩駆け抜けた道を反芻して一度枝の上に立ち止まった。
それに倣いイルカも隣の木の枝にとまる。

「ちょっと待ってくださいね…?」

ぐるりと辺りを見渡して、
念のため目印としておいた微弱な己のチャクラ痕を探る。


………。

………。


―――――あった。


「イルカ先生もう少しで着きますよ。コッチです」
「はい」


再び枝と枝を飛び越えながら先へ進む。
カカシの先導の元、進む先に待つものは一体なんなのか
皆目検討は付かないが、それでもきっと素敵なものに違いあるまいとイルカはひっそりと胸躍らせた。








そして、








「―――ぅわ、」







イルカの眼前に姿を現したのは大きな一本の

――――――――――- 八重桜。

















一本だけ。
堂々と地に根を張りたわわに花を咲かせた、見事な八重桜にイルカは言葉を失った。
ここまで見事な大輪の花を咲かせる桜は見たことがない。

里に咲く桜とはまた全然違う。
知識、見聞としては知っていた。写真で観たことならある、しかし、実物を見るのは初めてだった。

「綺麗でしょう?」
「えぇ」

いつのまにか横に立っていたカカシの問いにイルカは小さく頷く。

「見事な、八重桜ですね」
「え…?」

「え?」

カカシの声に、思わず鸚鵡返し。

「これ、桜なんですか……?」

驚いたように、問うカカシにイルカは頷いた。



……この人、知らなかったのか



「そうですよ、里で見かける桜とは品種が違いますけど。これも桜です。珍しいですけどね、こんな山深くにしかも一本だけなんて」
「そうなんですか…」

「ええ里で見かけるソメイヨシノよりもこの八重桜は少し開花が遅くて、咲き方もちょっと独特でしょう?牡丹みたいですよね」
「うん、なんか果物が生ってるみたいだなぁ、と思いました」

果物。
まさかの発想に、ちょっとだけイルカは苦笑した。
子どもみたいな発想―――、
でも、

「確かに言われてみれば近いかも…」
「…?何か俺、変なこと言いました……?」

「いえ、なんでもないです。でもよくこんな場所見つけましたね、カカシさん」
「あーそれは偶然です」

「偶然?」

「昨日の任務の帰りにね、近道しようと思ってこの近辺を通った時に偶然見つけたんです。
凄く綺麗だったからイルカ先生にも見せたいなぁと思って。手折って持って帰ってもアナタ喜ばないじゃない?だから、じゃあ連れて来きちゃえ、みたいな。今年は何だかんだで新年度からお互い忙しかったでしょ?一緒に桜も見れなかったし、同じピンク色の花だしどうかな…と思って。まさかコレも桜だなんて思わなかったけど。てっきりもう桜は散ってるものだと思ってたから」

ガリガリと後頭部を掻くカカシの言い分に納得。
確かに里の桜は疾うに散ってしまった。今年はお互いに本当に年度始めから忙しくてイルカ自身も全く桜を愛でている暇もなく、少し惜しい気もしていたのだ。まさかカカシも似たような事を考えていたとは思わなかったが。

「多分、この辺りは里に比べて少し寒いから桜の咲く時期も里のソレよりも少し遅かったんでしょうね。それでなくても八重桜は一般的な桜よりも開花時期が遅いですし、こんな5月の末に見事な桜を拝めるとは思いませんでした、ありがとうございます。カカシさん」

「いや…お礼を言うのは俺の方ですよ」

「え?」

「だって、昔の俺ならきっと気にも留めなかったもの」

「?」

「あなたと一緒に過すようになってからですよ、こうやって四季折々の変化に気がつくようになったのも。あなたが居なかったら、多分俺は今も何も感じてないと思う、ただ時間の流れを感じる一つのツールでしかなかった。それを違うものだと教えてくれたのはあなただよ、イルカ先生」

「カカシさん…」




「――――ありがとう、ございます。
ちょっと急遽予定変更になっちゃったけど、喜んでもらえてよかった。本当は日付変わったらすぐにでも言いたかったんだけど…」

「……?」



















「誕生日おめでとう、イルカ先生。
生まれてきてくれてありがとう、そしてこれからもよろしくね。俺、アンタのこと絶対離さないから」



















その視線は桜を見つめたまま、
しかし、強く握り締められた左手と僅かに伺える朱に染まる肌にイルカは優しく微笑んで、


「俺だって、離す気ないですよ」


カカシの右手を強く握り返した―――――――





Fin...






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イルカ先生お誕生日おめでとう!
ギリギリ完成したぜー!!
ちなみに北海道ではリアルにまだ
八重桜が咲いておりますのよ

20120526










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