年に一度の記念日。

貴方は、もう祝うような年でもない、と言うけれど
あいにく俺はそうは思わないんですよ――――カカシさん?







・+*+*+・はっぴぃ じゃっくぼっくす・+*+*+・








9月15日。

忘れるはずなど無いけれど、自分の為というよりはあの人に意識させる為にわざとらしく可愛らしいうさぎのシールをカレンダーに貼りつけたのは夏の暑さも徐々に和らぎ始めた9月のあたま。
何故敢えてうさぎのシールなのかと言うと、これは単に教材で余った分がたまたま手元にあっただけの事で実際は赤ペンで丸を書いても良かった。赤ペンよりはうさぎのシールの方がインパクトがあって目に付きやすいのではないかと思っただけの事だ。

あの人の考える自分像がどんなものかは知らないが、それでも多分、もうイイ加減いい年した男がカレンダーに似ても似つかない可愛らしいシールを貼っていれば、それは強烈なインパクトとして記憶に残る筈。
そう、その媒体なんてのは何でも良くて、とにかく記憶に残すことこそが最重要目的なのだ。





「そういえば、もうすぐ誕生日ですね」

「え…?
あー…そうですねぇ〜…」




そんな会話になったのは、それこそ月を跨いだ9月1日。
基本カレンダーは月を跨いだその日の朝か面倒なので月末最終日には捲ってしまうのだが、あの時はたまたま忘れていた。共に帰路につき、夕食を終え何となしに目に付いたカレンダーがまだ先月のままになっていたのに気がついて、ベリベリと剥がしたところで、そういえば…と相成った。

自分の誕生日の時はケーキを準備したり、
一体いつのまに用意したのかプレゼントも勿論用意されていて。

随分とはしゃいでいたので、てっきり今回もそんな感じなのかと思いきや……


「どうかしたんですか…?」
「え?」
「いや、てっきりもっとこう…祝って下さ〜い!的な何かがあるかと……」
「何ですか、それ〜?」


クスクスと笑うそれは別段何かを隠していると言う感じはしない。
でも、何と言うか正直予想外の反応だった。


「そんなもう祝ってもらうような年でもないですからねぇ、俺も」
「いや、俺とそんな年変わんないし」

「イルカ先生の誕生日はおめでたいですよ?何を言ってるんですか?」

「は…?」

「だって、イルカ先生の誕生日はイルカ先生がこの世に生を受けた日デショ?もしこの日が無かったら俺はイルカ先生と出会えてないんですよ、そんなの考えるだけで恐ろしい。だから、イルカ先生の誕生日はすっごく特別な日なんです」







意味が分からなかった。

だって、それはカカシの誕生日にも言えることではないか。







―――俺の誕生日はめでたくて、自分の誕生日はめでたくないとでも?







*** *** ***







「…よしっ!」

イルカはカレンダーを見て小さくうなづいた。
月あたまの、あのやりとりからカウントして15日目―――本日は、9月15日。
はたけカカシの誕生日。

カレンダーでは相変わらず部屋には似つかない可愛いうさぎさんが、ニコニコと笑顔をたたえている。

今日一日の動向を伺う限り、本当に自分の誕生日などどうでもいいらしい。本日も何ら変わらずいつも通り任務をこなしただけだった、と彼の人の状況を教えてくれたのはイルカの元教え子たちだ。
それどころか子供たちは現担任の誕生日を知らなかったらしく、驚いてすらいた。

まぁ、己に関する情報など敢えて開示する必要などないし、カカシ程の忍びとなるとそういう意識が既に無意識下で働いている可能性もあるので、子供たちが知らない可能性はイルカも想定はしていたのだが。


しかし―――


『えー!?カカシ先生ったら水臭い!!』
『誕生日だって知ってりゃ、今日位少しサボったって大目に見てやったってばよ…!』
『………』


その物言いには少々気に掛かる部分もあったが、
それでも子供たちは子供たちなりにやはりカカシの誕生日を特別だと思っている。
そのことをイルカは微笑ましいと思ったし、また自身もカカシの誕生日を当然特別な日だと思っている。


だが、
その当人は全く興味がないらしい。


イルカだって別段自分の誕生日を然程めでたいモノとも思ってはいない。子供の頃はさておきもう充分にいい年だ、自分から特に騒ぐことも無くなった。でも、それでもやはり、一言「おめでとう」と言われるそれだけで、素直に嬉しいと思う。

―――だが、カカシにはそれが一切無い。

それがイルカの心に引っかかった。





本人が乗り気でない以上、
あまり盛大にやるのも温度差があるのでケーキ等は用意はしていない。
一応カカシが好きだと言うサンマは時期と言うこともあってイイのが手に入ったので、それに併せて夕飯にカカシの好物を並べるに留めた。





そして、もう一つ。






テーブルの上には茶色い包装紙に包まれた箱一つ。






イルカがチラリと時計を見やると既に時間は19時を経過していた。

仕事上がりに寄るように頼んだので、
特別緊急な『何か』がなければはそろそろ来る頃合い。
下準備をすべて整えておいた料理に最後の手を加え、あとは出来上がりを待つばかりだ。
そして、まるでそのタイミングを見計らったかのように来訪者を告げるチャイムがイルカを呼んだ。誰か、なんていうのは言うまでも無い。





「おかえりなさい、カカシさん」
「ただいま帰りました〜」





案の定、というか、当然というか、
そこには銀髪の上忍が少々猫背気味に立っていた。







「お疲れ様でした」
「はいー…、
今日はイルカ先生受付お休みだったんで、余計に疲れました〜」
「何ですかそれは?」
「イルカエネルギー切れです〜…」
「そんなエネルギー、聞いたことありませんよ」
「俺専用の、特別エネルギーなんです」
「意味分かりません」


軽口を叩きながらイルカが前を歩く形で居間へと向かう。


「もうご飯出来るんで、ベスト脱いだら手洗って待っててください」
「は〜い」


イルカはそのまま居間を通り抜け、台所へと向かった。
その後ろをついていたカカシは居間でベストを脱ぎ、いつもの位置に掛けてそのまま洗面台へと向かう。テーブルの上には普段なら置いてあるはず無いものが堂々と鎮座しているにも拘らず、一瞬目に止まったようだが特に興味関心を抱くまでは至らなかったようだ。



その様子を気配だけで伺いながら、イルカはやはり内心で首を傾げる。
普通はこの段階でその意図に気づいて然るべきではないのだろうか?

どうして、ここまで無関心になれるのか。
それとも意図には気づいていて遇えて関心を示さないのか。



……分からない。



自分の誕生日の時とのこの温度差は一体何なのか……



「イルカせんせぇ〜?」

「はっ…はいっ、何ですか!?」

「まだ掛かるなら何か手伝いましょうか〜?」


少しばかり意識が思考の海へと飲み込まれていた。
どうやらもう手を洗い終わり居間のいつもの席に腰を下ろしているらしい、カカシの間延びした声にイルカは慌てて返事をする。


「あ、大丈夫です!今行きます〜」




そして台所から居間へと戻ると
テーブルには相変わらず箱が鎮座したまま、カカシがいつもの定位置で常々イルカが子供の前で読むのはいかがなものかと思っている愛読書を広げていた。

「あ、イルカ先生」

イルカが戻ってきたことに気づいて顔を上げる。

「俺も運ぶの手伝いましょうか?」
「大丈夫ですよ、お疲れでしょう?待っててください」
「そうですか…?」

腰を上げようとするカカシを片手で制してもう一度台所へと戻る。
なんだかもう、箱の存在自体カカシには見えていないのではないか。そんな錯覚さえ覚えさせられる。そんなわけ無いのに。

「イルカせんせぇ〜?」
「はーい?」

「デーブル狭くなっちゃうから、この箱ちょっと避けてもいいですか〜?」
「えっ!?
――あ、ちょっ、待って!そのままにしておいて下さい!!今行きますから!!」



やっぱ見えてるんじゃないか!


見えてないわけが無いだろ、ともう一人の自分が脳裏で突っ込みを入れてきたがそれはそれ、焼きあがったサンマを乗せた皿を持って、イルカは慌てて居間へと引き返した。

だが、その後のカカシの開口一番にイルカは言葉を失うことになる。








「コレ、誰かからの頂き物ですか?」


「……は?」








何を言ってるんだこの人?
一瞬、イルカの思考が止まった。

しかし、カカシに他意はない様子。

らしくもないうさぎさんシールはどうやら徒労に終わってしまったらしい。

ここまでお膳立てして、気づかないとは……







「コレ、プレゼントです」

「…え?誰からですか!?誰から貰ったの!?」








ここまで言っても駄目なのか!?

イルカは軽い眩暈を覚えた。
そして小さく息をつき、







「―――俺から、ですよ」
「イルカ先生から…?」

「俺から、貴方に、です!」









「へ?」











「俺から、あなたへの誕生日プレゼントです!」





次はカカシが言葉を失う番だった―――







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