たとえばこんな愛し方
― Side.K ―




「俺と、別れて下さい ――― イルカ先生」

「…分かりました」




そうして、二人の関係はあっけなく終焉を迎えた――――









それから数日後、


「……おい」
「ん?どーしたよ、怖い顔して?」

上忍待機室でのこと。何をするでもなく愛読書を片手にだらしなくソファに腰掛けていたカカシにアスマが声をかけた。

「……お前、イルカと別れたってのはマジか?」

それはついさっき小耳に挟んだ、噂。
正直、その話を聞いた時アスマは耳を疑った。
カカシがイルカに一目惚れをして以降、常にアスマはその犠牲となってきた。イルカの一言一句、一挙一動にそれまで他人への関心など殆ど示さなかった男が一喜一憂し、何度したくもない慰めの言葉をかけて発破をかけてやったことか。
何度見放してやろうかと思ったか知れない。
しかし、今まで他者への関心が薄かった男が本気で惚れたと言うから、そしてその想いが本当だと厄介なことに判ってしまったから、柄にもなく応援もした。

そして何度となくアプローチをかけて、ようやく手に入れた意中の相手。

なのに、


『はたけカカシがうみのイルカを捨てた』


そんな話あるはずがない。
だって、本当に幸せそうに笑ってやがった。
今までに見たこともないような、そんな笑顔を。イルカの前では……


アスマは面白く無さそうに咥えていた煙草を灰皿に押し付けた。


「どーなんだ。応えろよ、カカシ」
「……別れたよ。俺から別れて下さい、ってお願いしたの」


さもあっさりと、何も無かったかのように。
常に携帯してるという小説から目さえ逸らさずに応えるカカシに、アスマの目が驚愕に慄く。

信じられない。
一体何があったというのか…

「おい、冗談だろ…?」
「冗談でこんなこと言うわけ無いデショ」

「だってお前!イルカのこと好きだったんじゃないのか!?」
「『好きだった』?……何言ってンのさ、アスマ」
「な、に…?」






「俺は、今も昔もこれからもずぅ〜っとイルカ先生が好き。イルカ先生だけが好き。もうあの人以上に好きになる人なんていないね」






「……どういうことだよ、それ」

初めて視線を上げたその先、まるで愛しい人の姿を追うかのように見上げる虚空に一体何を見ているのか。アスマはカカシの言わんとすることを図りかねていた。
言っている意味が分からない。
好きなのに別れるなんて、一体何を考えているというのか。
そんな淋しそうな目をして、何故、別れを選んだのか。

「惚れてるんならどうして…。イルカだって、お前のこと―――」

「――うん。イルカ先生もね、俺のこと好きって言ってくれたよ。
嬉しかったなぁ、すっごく。俺さ、今まで生きてきて何度も死にたくなったけどあの時ばかりは本当に生きてて良かったと思えた…」

「だったら…」

「―――だから、だよ」

「なに…?」

「あの人もね、言ってくれたんだ。会えてよかった、って。
あなたと会えて本当によかったって、イルカ先生、笑ってくれるんだよ。綺麗な笑顔で俺を見てくれるんだ。
……俺なんて、いつ死ぬか分かんないのにね……」

「お前…」

その、カカシに珍しい自嘲的な笑みにアスマは言葉を失った。

「だって、そうだろ?
確かに今まではこうして生き残ってきたけど、生憎と俺は自分の能力が絶対だとは思ってない。突然、いなくなっちゃう事だって有り得るんだよ。
その時―――俺が死んだ時に、イルカ先生には泣いて欲しくない。悲しまないで欲しい。あの人にはずっと笑っていて欲しいと思うから、だから、別れた」

「………」

「知らないデショ、アスマ。あの人、アレで案外強い人なんだよ。
だからきっと、俺のことなんて過去にしてきっと新しい好きな人を見つけて家庭を築いてさ、幸せになってくれると思うんだよね。俺は俺が死ぬまで、あの人の笑顔が見られればそれでいい」

「カカシ…」


何と言っていいものか、言葉が見つからない。
いつもは飄々としていて何を考えているか分からない男は、その実とても優しくて不器用だった。知ってるつもりで全然知らなかった一面に、アスアはかける言葉を見つけることが出来なかった――――――








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20041105 UP






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